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「iju info」創刊に寄せて
金丸弘美
 今度、農業や林業、漁業の仕事をしたい人たちの情報誌が出ると聞いて、とてもうれしくワクワクしている。農村や漁村をつなぐ身近なネットワークがあるといいのにと、ずっと思っていたからだ。
 うちの家族は、今、奄美大島の徳之島に住んでいる。妻の体調がすぐれず、二人の子供のためにも自然の環境を与えたいと思ったからだ。でも島に住むと決めたものの、住まい探しの情報を探すにさえ、最初は、ものすごく時間が掛かったからである。
 島の暮らしは、妻を溌剌とさせ、子供たちを太陽の子のように黒光りした健康体に育てた。そうして島に移住したと知った僕や妻の仲間が、次々に島に遊びにやって来るようになった。一方、妻も僕も島の農家や漁師さんと仲が良くなった。なかには、本土から島に来て農業をする人や、定年後をゆったり暮らす人などもいることを知った。
 妻に頼まれて島の人の暮らしをエッセイにした。題は、島の「ゆっくり」という意味から『ゆらしぃ島のスローライフ』とした。

徳之島のツアーに参加した人たち
 この本を見て、全国から手紙が届くようになり、島に暮らしてみたいと訪ねてくる人まで現れた。そんなとき、東京のカルチャーセンターから、「島を訪ねるツアーをできませんか?」という話が出た。そこで、島の農家や漁師さんと何度も協議して、普段の家や農地を開放してもらい、農産物の土作りから見学し、畑の野菜を使って民家で手料理を食べ、調味料の塩も海から海水を汲んで薪で炊いて作り、夜の宴席は島の人が参加するという異例のツアーを行ったのである。
 ツアーは東京や大阪から17名、それもほとんどが20代、30代の男女がやってきた。そうして、普段島の人たちが、見過ごしていた、畑や民家や、手作りの料理に感動してくれたのである。このツアーに参加した人たちと島とのネットワークができ、また一人の女性は、農業に憧れ、その後、高知の四万十の農家に嫁いだのである。
 そのツアーがきっかけで、島の人にも、自分たちの普通のことこそが素晴らしいという自信にもなったし、一方、都会の若い人たちにも、会社勤めではない、スローな暮らしを切望する人が、たくさんいることを改めて知ることになった。
 実は、僕は15年前から、農家と都市の人をつなぐ小さなツアーを毎年行っている。動機は、子供が生まれて間もないころ、周りにアレルギーの人が多く、安心で新鮮な野菜を食べたいという要望が多かったからだ。そこで東京にも農家がたくさんあり、協力してもらえることも分かって、「元気な農業講座」という、農家の体験見学を始めたのである。

東京都練馬区の加藤農園の農業体験に参加する人たち
 こうして仲良くなったのが、練馬区の加藤義松さん、世田谷区の大平博四さん、八王子の磯沼正徳さん、埼玉県東浦和の萩原ひとみさんたちである。この人たちの農家は開放されていて、一般の人たちが参加できる体験農園を早くから取り入れていた。そこには農業をしてみたいという若い人たちがたくさん来ていることを知ったのである。
 僕は、ジャーナリストが仕事だから、全国の農村や漁村を訪ねているのだが、地方では、農業従事者を探している。一方、都会では真剣に農業をしたいという人が身近にいる。それらがもっとうまく有機的に結び付けば、とずっと願ってきたのである。だから、今回の新雑誌創刊は、うれしいニュースなのである。
−プロフィール−
かなまる・ひろみ/1952年佐賀県唐津市生まれ。食環境ジャーナリスト。
日本ペンクラブ環境委員。ニッポン東京スローフード協会設立発起人。佐賀県食育研究会発起人
【No.1(2006年春号)掲載】
 
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