ここから始まるI・J・Uターン

日々研鑚
試行錯誤を積み重ねる
高知県 土佐清水市漁業協同組合 比嘉秀仁さん

自分の船・仁漁丸の上で(左から優子さん、愛海ちゃん、秀仁さん)
就労人口の減少
 土佐清水市は、高知県の西南端、足摺半島の付け根に広がる天然の良港を擁した漁業水産都市。昔から漁業が盛んで、漁船で操業中遭難してアメリカに渡り、幕末期に通訳として活躍したジョン万次郎の出身地としても知られている。
 足摺岬の沖合いは、天然の漁礁が広がり、カツオやマグロ、サバなどの漁獲の他にサンゴの採集地でもある。
 土佐清水市漁業協同組合は、年間漁獲高約21億円、正組合員1307人、准組合人845人(2005年3月現在)と県内第2位の規模。最近は、地球温暖化のせいか、黒潮の流れの変化や数年前の西南豪雨の影響などで販売取扱高が低迷、これに最近の石油価格の高騰が輪をかけて操業経費を圧迫している。各地の漁業都市の例にもれず、当地でも就労人口の減少と後継者問題を抱えている。
 土佐清水市漁業協同組合は、こうした問題の解決を図るため、県や市の支援のもと、01年から漁業就業者支援事業に取り組み始め、県内外の漁業就労希望者に門戸を広げている。

すんなりと漁師の道を選択

漁協の横には作業小屋が建ち並び、ここで漁具の手入れや餌付けをする
 「200キロ、300キロと大漁をしたときは本当にうれしい。全部、自分の努力が実ったのだから」と、にっこりするのは、比嘉秀仁(ひが・ひでひと)さん(41歳)。「高知県漁業就業支援事業」の第一期生でこの道に入って5年、「清水サバ」立縄漁を営む漁師である。
 清水サバとは、土佐清水市足摺岬の沖合いに広がる天然の漁礁に生息するゴマサバを指す市場での名称。150mほどのテグスに20本前後の釣り針を付け、海中に垂直に垂らして魚を釣る。釣り上げたサバは鮮度を保つため船上でいけすや冷海水に入れて港に持ち帰り鮮魚や活魚として出荷する。土佐清水市漁業協同組合が全国に向けて売り出したブランド名である。
 比嘉さんは沖縄県座間味島の出身。ここで、東京の大手企業を退職し座間味島に移住、ダイビングショップで働いていた優子さんと出会う。比嘉さん30歳のときだった。二人は優子さんの両親の元で暮らそうと、千葉県・我孫子市に転居、結婚して愛海ちゃんが生れた。我孫子市での比嘉さんの職業は運送関係だったが、折りからの不況でどこに勤めても事業の縮小などに遇ったことから、自然に定年やリストラの心配のない職業を探し始めた。
 そんな折、UターンIターンフェアで高知県漁業就業支援事業を知った。もともと座間味島の真っ青な海を見ながら育った比嘉さん、農業や林業を選ばず、すんなりと漁師になる決心がついたという。一時は故郷の座間味島で漁師をしたいと思ったが、観光化が進み、漁師の新規就労は困難な状況だった。こうして土佐清水市での漁師の生活が始まる。比嘉さん36歳、家族3人でのスタートだった。
 大変だったでしょう? という質問に、「夫婦の気持ちをちゃんと確認してさえいれば、環境が変わるのは平気。彼について行こうと思った」と、優子さん。この積極さで比嘉さんを支え、さまざまな局面を乗り越えてきた。
最近感じる漁に対する手応え

水揚げ風景。土佐清水漁港では必ず夫婦で行う
 比嘉さんの研修期間は3年だった。最初の2年間はベテランの漁師(指導者)の船に乗り組んで漁のイロハの指導を受けた。3年目は県の融資制度を利用して船を買い、自分で漁に出て自分で稼ぐことを始めた。一人で漁に出るようになったとはいえ、漁師としてはまだスタートしたばかり。研修期間中は折に触れ指導者にいろいろと相談し、多くのことを教えてもらったが、現在でもまだまだ学ぶことは多いという。例えば、ベテランの漁師と同じような漁の方法を取れば、同じ漁獲があると思っても、ほんのちょっとした技術やノウハウの差が、水揚げを大きく左右する。「試行錯誤、勉強の毎日です」と比嘉さんは答える。しかし最近、5年間の研鑚のせいか自分の漁に対して、何か手応えのようなものを感じているようだ。
 12月から翌年3月までの水揚げで年間の半分から3分の2を稼ぎ、夏の魚価の安い時期に備えるというのが1年の大きな流れ。漁のある月とない月では3倍ほどの開きがあるが、冬場の稼ぎで、この時期を乗り切るそうだ。
 漁に出るのは深夜1時、港に戻って水揚げするのが翌朝の午前10時。港では優子さんが出迎えて水揚げを手伝う。
 水揚げ作業が終ったら、漁協の脇に建ち並ぶ各自の作業小屋で、二人で仕掛けの補修や翌日の釣り餌付けの作業を行う。土佐清水漁港の立縄漁は、夫婦単位の漁法である。
 比嘉さんに、これから漁師を目指す人に向けて何かアドバイスをと求めると、「就労する前に調査可能な情報は全部調べること。いったんスタートしたら良いときも悪いときもある。漁があるときだけ出漁するようでは、年間を通じて安定した生活は望めない。どんな状況でも地道に継続する忍耐力が必要」との答えが返ってきた。
 同じ質問を優子さんにすると「自分がやりたいことは、周囲の意見にまどわされずチャレンジすること。そして、行き詰まったときに、それを打開する知恵や、苦労を楽しむぐらいの気持ちを持っていたら、どこでも暮らせるはず」と、笑顔で答えてくれた。

充実した支援内容

水揚げされた魚はすぐにセリにかけられる
 土佐清水市漁業協同組合の川上裕敏専務は「『高知県漁業就業支援事業』では、これまで高知県内では8人の県外者を研修生として受け入れたが、今のところ脱落者はゼロ。現在は地元出身者を受け入れる方針に変わりつつある」と語る。
 川上専務によれば、高知県は01年から同事業をスタートし、新規に県内で自営の沿岸漁船漁業の就業希望者に対して、支援を行っている。その支援事業の概要は、@地元のベテラン漁師を指導者とする技術修得支援、A研修期間中月額最高14万円の生活支援(生活の拠点がある場合、支給額は10万円となる)、B月額4万円の住居支援、そのほかに土佐清水市独自の支援として、研修生の妻に月額3万円、子供一人につき月額1万円などの支援もある。
 この事業は、単に就労者確保を目的にしたものではなく、自分の船を所有した漁業経営者の育成が目的だそうだ。こうしたケースは全国でも珍しく、支援も充実した内容だ。
 川上専務に求められる研修生像をたずねると「楽な仕事ではない。この現実をしっかりと認識して応募してほしい」と語った後、「是非、奥さんや恋人と一緒に来てほしい。くじけそうになったとき、きっと思い止まれるはず」と付け加えた。
●土佐清水市漁業協同組合
所在地:高知県土佐清水市市場町11-4
TEL:0880(82)1221(代表)
設立:平成15年4月、市内8漁協のうち6漁協が合併して設立。
代表理事組合長:串間正章
組合員数:正組合員1307人、准組合員845人
販売取扱高:21億1000万円
活サバ取扱量:5万尾
主な漁業種:サバ立縄漁法、サバ毛針漁法、宗田ガツオ・カ
ツオ・マグロ引き縄漁法、大型・小型定置網漁
法、サンゴ採貝藻業、一本釣漁法、マグロ延縄
漁法、エビ建網漁法等
主な魚種:宗田カツオ、ゴマサバ、カツオ、マグロ、ブリ、ス
ルメイカ、アオリイカ、イセエビ、メダイ
【No.2(2006年夏号)掲載】
 
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