ここから始まるI・J・Uターン

森の仕事を体験する旅
林業見学・交流ツアー
農業や漁業は何となく想像できるが、林業って実際どういうことをしているのか分からないという声を、よく聞く。全国森林組合連合会ではそうした声に応えるためもあり、林業就業を考えている人を対象に、森林作業を体験する「林業見学・交流ツアー」を行っている。そこで今回、福井県名田庄森林組合の協力で行われた同ツアーを取材した。

「太陽の下で働きたい」と、ツアー参加の理由を教えてくれた
 最初にこの「林業見学・交流ツアー」の概要を述べよう。主催は全国森林組合連合会。厚生労働省の委託事業として国の支援により行われている。そのため参加者は、集合場所までの交通費がかかるのみで現地での費用負担はほとんどない。土日1泊2日で各地域の森林組合に赴き、森林作業を体験・見学し、森林組合の人との交流を図る。2006年春は全国5ヵ所の森林組合で行われた。ツアーの趣旨はいたってシンプル。森林(もり)の仕事を知ること―だ。

1日目
【9:00京都駅出発】
 集合場所の京都を朝9時に発ち、バスに揺られること約1時間半。森の中に立派な施設が現れた。名田庄だ。蛇行した南川の懐に抱かれたこの施設は、野外スポーツ施設、キャンプ場、バーベキュー広場のほか、かやぶき屋根の宿泊施設や町営ホテル、道の駅などが豊かな自然の中に点在している。バスはその中の一つ、コンベンションホール「流星館」前で停車した。
【11:30オリエンテーション】
 開会式の後、オリエンテーションで10人ずつの班分けが発表された。班長は名田庄森林組合で森林作業に携わる人たちだ。
【13:30林業体験】
 午後はいよいよ山での林業体験へ。現場に入る前に、この2日間の陣頭指揮をとる名田庄森林組合の萩原さんから注意事項が伝えられた。
 「マムシとシマヘビの違いが分かる人いますかー? 蛇を見ても踏んだりしないでくださーい」。

これでも「平ら」な場所だという、森林作業現場
 皆の緊張をほぐすように話し掛ける。その後、ノコギリやカマなどの道具が次々と車から運び出され、参加者たちは、腰にノコギリ、手にはカマという格好に。
 「NPO主催の似たようなツアーに参加したことがありますが、ここまで本格的な道具は持たせてもらえませんでしたよ」「ノコギリなんて持つの、初めて」と、驚きの言葉を口にし、戸惑いながらも皆、目を輝かせた。
 木立に囲まれた山の中は、ほの暗い。岩が飛び出た地面は、ぬかるんでいて足を取られる。しかも傾斜は20度くらいあるだろうか。道なき道をツアー参加50人が慎重に歩を進めること20分。現場に到着。作業が始まった。


いきいきとした表情で「枝打ち」作業をするツアー参加者
 まずは「下刈り」。植林木周辺の雑草を刈る作業だ。「カマで刈りながらどんどん上ってください」と、うながされ、慣れない手付きで草を刈っては、這うようにして登っていく。しかし、傾斜がきつい上、雑草だらけとあって、なかなか登れない。参加者の一人が「すごい斜面ですね」と、班長に話し掛けると「この辺はまだ平ら≠ネんですよ」と、笑顔の返事。これには一同「ええ?」と、驚きの声。共同作業が徐々に場の雰囲気を和ませる。
 30分後、初夏の蒸し暑い山のなか、最初は一塊になっていた集団も、広がって作業をしており、隣の班ではすでに「枝打ち」に入っていた。
 「枝打ち」とは、幹を傷つけないようにしながら、地上1.5mくらいまでの枝を落とす作業。すぐに参加者から班長に質問が寄せられた。「切った枝はどうしたらいいですか」「このへんから切っていいですか」。今度は将来「商品」となる植林木が相手。作業も気を使う。が、切り口を見つめるその表情は、皆「いい顔」だ。
【18:30夕食〜交流会】

交流会が行われたかやぶき屋根の宿泊施設
 夕食はバーベキュー。開始1時間もすると、いろいろな席に移動しながら話す人が増えてきた。携帯のメールアドレスを交換する人、名刺を交換する人…。そしてこの雰囲気のまま、夕食後はすぐ隣の棟にあるかやぶき屋根≠フ建物へ。広い畳の部屋での「交流会」の始まりである。
 少し遅れてかやぶき屋根≠フ引戸を開けると、ものすごい量の靴が転がっている。強制参加ではないのだが、ほぼ全員が集まっているようで、車座がいくつもできている。輪の中心にいるのはやはり班長、日に焼けた名田庄森林組合の人たちである。

今ツアーで陣頭指揮をとった名田庄森林組合の萩原さん
 実はこの地域はIJUターンの人が多い。先の萩原さんも大阪からのIターン。以前は広告制作会社に勤務していたという。第2班の班長である知見さんは新潟出身。いったん都心に出てから名田庄にやってきたのでJターンとなる。参加者が憧れる人生がそこにあるのだ。
 「みんなには、森のことでも個人的なことでも、何でも聞いてほしい。僕たちはどんなことでも答えるから。それがこの交流会の目的です。名田庄に住みこの地の風土と人情を作っている人が素晴らしい。僕ら自身≠焉A少しでも地域の「資源」になればいいと思っているんです」と、萩原さんはいう。
 一方、参加者たちは、転職を考えている、林業に興味がある、田舎暮らしをしたいなど「生き方を切り拓くきっかけにしたい」という思いで今回のツアーを申し込んだという人が多い。
 話題は自然、今抱えている思い、将来の希望、田舎暮らし、林業の雇用、給料や地域の人との人間関係など、現実的で個人的なものとなる。蛍舞う名田庄の夜は、こうしてさまざまな意見や考えが交差し、静かに深けていった。

2日目
【8:00林業の説明〜見学】

2日目の朝は林業、森林についてのガイダンス
 2日目は、林業全体や森林作業などの説明が「流星館」で行われた後、雨の様子を見ながら森林作業の現場へと出発。日曜なので普段どおり≠ニはいかないが、木材の運搬、加工などの作業を見学した。また、間伐材を使った堰に案内され、林業の新たな可能性を探るための取り組みなども紹介された。
 参加者の中でもひときわ熱心に話を聞いている人が何人かいたので話を聞いてみた。一人は今回のツアーで3回目という大学4年生。「卒業後は山の仕事に就きたい」そうだ。もう一人も学生で「かなり本気で林業に就こうと思っています。ふるさと愛媛の隣、高知か香川の森林組合に就職しようと考えています」とのこと。頼もしい。

木材運搬作業を説明する名田庄森林組合の松尾さん(右)と参加者
【12:45意見交換/閉会式】
 閉会式では最後ということもあり、自由な意見が交わされた。なかでも「直接就業に結び付くようなツアー内容にしてほしい」「もっと実際の業務に踏み込んだ内容に」などの意見に対し、全国の林業労働力確保支援センターで相談に応じたり、林業就業支援講習などもあるというやり取りを聞けたことは、とても印象的だった。ツアー参加者の多くが、まじめに将来のことを考えて参加してきたという証だろう。
 バスに乗り込む帰り際、見送りの森林組合の人たちに向け「また、来ます」と、何人もの参加者がいっていたのを思い出す。皆、きっと、印象深い旅になったことと思う。
●全国森林組合連合会
東京都千代田区内神田1-1-12
林業見学・交流ツアー事務局
電話03(3406)7536
【No.3(2006年秋号)掲載】
 
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