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| 自然の中で暮らしたい」を実現 |
| 島根県安来市 大久保利哉さん |
大久保利哉さん(45歳)は1996年に島根県安来市にIターン。97年に自営就農し、現在はキク、トルコギキョウ、ストック、ナデシコなどを、主にハウスで栽培、市場や花店、園芸店などに出荷している。
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「経営の安定が今の課題」と大久保さん。キクのハウス内で |
「作業小屋がほしいなと思っているんですけど」。そういいながら、大久保さんは出荷が終わったハウスを案内してくれた。
例えばキクの場合だと、1日の出荷数は1600本に上るが、その出荷調整作業はすべて、自宅の玄関で行っているのだ。「借りている家は古い農家なので今どきの玄関よりは広いけど、作業をするにはやっぱり狭いですよね」と大久保さん。
大久保さんは京都に生まれ、高校、大学時代を東京で過ごした。大学卒業後も東京の旅行会社に就職し、忙しい日々を送っていた。しかしその一方で、「自然の中で暮らしたいという思いをずっと持っていた」。子供時代を農村(京都市山科区)で過ごしたせいもあり、自然、とくに植物が好きで、園芸科への進学を考えたこともあった。だが就農を考えたのは、「どちらかというと都会を抜け出したいという気持ち」から。「それに、非農家の生まれで農業をやるなんて、不可能だと思っていた」。
農地を取得、そして就農

種から育てた苗を畑に運んで定植 |
94年に旅行会社を退職。あれこれ情報を集め、可能性のあるところは訪ねてもみた。チャンスは不意にやってきた。たまたま訪れたIターンUターン関連のフェア(新規就農相談会)で、島根県に農業研修生の受け入れ制度があることを知る。「とりあえず、法人で働いてみたら」との誘いに、「チャンスがあるなら、飛び込んでみよう」と、すぐに履歴書を送った。
さっそく奥さんともども移住。96年4月から「I・Uターンのための島根の産業体験事業」を利用して農業法人で経験を積み、97年10月に農地を取得、独立した。
取得した農地は中海干拓地の60アール。中海干拓は63年に始まった国営事業で、その結果、島根県には揖屋(東出雲町)・安来(安来市)の両地区に、合計330ヘクタールの農地が造成された。大久保さんが取得したのは、安来地区の農地128ヘクタールの一角である。購入にあたっては、農地等取得資金(農林漁業金融公庫の低利貸付資金)及び利子補給制度(3年間は無利子)を活用した。この制度はその後、「中海干拓地区農地等取得支援事業」に発展。これは、干拓農地で農業を始めたい人に、農地取得費やパイプハウス建設費の2分の1、土地改良・土壌改良費用など農地高度化資金を無利子で融資するもの(農地高度化等資金については償還免除制度あり)。また、取得を前提に、農地の無償リース事業も今年度からスタートしている(詳しくは22頁参照)。
ストレスから解放された暮らし

手際よく定植作業をこなしていく |
就農当初、大久保さんは露地野菜を栽培していたが、松江農林振興センターの勧めもあって、花き経営へとシフトしてきた。「露地野菜の販売ではなかなか収入が上がらなかった。花は技術がいると聞いていたが、普及員やJA花き部会の方々から技術を学びながら挑戦し、徐々に品目を増やしていった。自分としてはキクが合ってるみたい」と大久保さんは微笑む。
とはいえ、潤沢に資金があったわけではない。ハウスは利用しなくなったものを無料で譲ってもらい、トラクターなど最低限必要な機械は、中古品を安く購入。経費をぎりぎりまで切り詰めた。就農2年目までは赤字で、様々な内職やアルバイトで生活をつないだ。借入金の返済も含め、どうにか生活できるようになったのは3.4年目から。「いまだに余裕はない。Iターンして一番きついのは、やっぱりお金がないことかなあ」と大久保さんは笑う。
それでも、自然の中で働けることが何よりうれしいし、サラリーマン時代に感じていたプレッシャーやストレスから解放され、自分で立てた計画で自由に仕事ができることが楽しいという。そして、「お金はないけど、食べていける。お金に振り回されないのは幸せ」と大久保さん。
「妻も、東京で仕事を続けるのはいやだなと感じていたみたいで、こっちに来たことを喜んでいます」
Iターンゆえの工夫と困難も

ハウスは不要になった人から無償で譲り受け、自分ですべて設置した |
作業は、大久保さんは栽培全般を、出荷調整は主に奥さんが担当している。品種は、市場性や作りやすさなどを考慮しつつ大久保さんが決定するが、「出荷作業がしやすい花を作って」など、奥さんから要望が出ることもあるとか。今、最大の目標は、技術の確立と、経営の安定。有利な品種の選定や作業の合理化など、より労働効率のいい生産体制を整え、いずれは規模拡大していきたいと考えている。
「Iターンの場合、人手が限られているので、効率的な作目や生産方法を工夫していかないと厳しい。また、高価な機械を買うわけではなくても、スコップや鍬、草刈り機といった小さな買い物も積み重なるとそれなりの金額になってしまう。普通の農家なら納屋に転がっていそうなもの、例えばロープ1本から揃えなくてはならないことを、Iターンの人は頭に入れておいたほうがいい」とアドバイスする。
チャンスは自ら動いてつかむ
10年目に入り、地域にもすっかり馴染んできている様子の大久保さん。冠婚葬祭や地区の行事、草刈りなどの共同出役にも積極的に参加している。
「農業をするにせよ、ほかの仕事に就くにせよ、地元の農家の人と仲良くなること。地域に根差して生きてきた方たちだから、いろんなことを教えてくれるし、知り合いも幅広い。僕らも本当にお世話になっている」と、地域にとけこむ秘訣を話してくれた。
大久保さんは、中海干拓地での新規就農の先駆けとなった。このところ後輩もでき、今後さらに増えることが見込まれる。大久保さんが移住先を模索していた10年前は、まだ都会から地方に移住することや、農業経験のない人が就農したり農地を手に入れることは簡単ではなく、希望する本人が、手探りで道を開いていかなくてはならないことが多かった。当時から比べれば、今、地方の受け入れ体制や国や県の支援策は格段に充実し、手厚くなっている。新規参入しやすい環境ができたことは喜ばしいが、逆に、充実しすぎることを心配する向きもある。大久保さんも、「人があれもこれも用意してくれると、自分で動こうという気を削がれてしまうのでは」と懸念する。
「とにかく、動いてみること。やってみなければ、自分に合うかどうかも分からない。本当にやりたかったら、きっと道は開ける」と、大久保さんはこれから続く人たちにエールを送る。 |
| 【No.4(2006年冬号)掲載】 |
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