ここから始まるI・J・Uターン

志摩の海を舞台に自分らしいスタイルで
志摩の国漁業協同組合 志島支所所属
杉浦祐治さん

タンポなど道具を作るのも楽しいという杉浦さん
Iターンで海士に
 伊勢エビやアワビをはじめ海の幸が豊富な志摩で、古来より活躍してきた海女さん。「志摩の海女さん」というと、白い作業着に身を包み、頭に磯桶を載せた女性のイメージが強いが、同じように素潜りで漁をする男性「海士」も増えてきたという。この海士として2年前から志摩の海で漁をしているのが、志摩の国漁業協同組合志島支所所属の杉浦祐治(34歳)さん。大阪市内からIターンで三重県志摩市志島に移り住んだ。

海士の仕事
 杉浦さんの海士としての一日は、まず通称「海女小屋」と呼ばれる浜辺の小屋に集まるところから始まる。海女の漁業スタイルには、一人で岸から漁場まで泳いでいって潜るものや夫婦舟で夫が船を操り妻が潜るものなどがあるが、杉浦さんは数人の海士・海女と共同で舟に乗り込んで漁場まで行く。朝8時に集合し、天気予報や波の高さを見て漁に出るかどうかを皆で決めたら、黒いウエットスーツに着替え、舟に乗って海へ。天候や潮の流れを読んで漁場が決まったら、いよいよ活動開始となる。
 まず、腰に巻いた綱で「タンポ」と呼ばれる浮き輪を結わえる。「タンポには網が付いていて収穫物入れにもなってるよ」と説明してくれた杉浦さんのタンポはレゲエの象徴である赤・黄・緑のラスタカラー。手作りの道具だ。海に飛び込み、海水に浸かって体を慣らしたら、水中メガネと錘おもりをつけ、呼吸を整えたところで一気に潜っていく。
 目の前に広がる青い世界。スローモーションのようにゆったりと揺れる海草、陽の光を受けてキラキラと反射する魚の群れ。その気配を感じながらも、杉浦さんの目は獲物を探す。酸素ボンベのない素潜りであるため、1回に潜れる時間はせいぜい40秒〜50秒程度。全神経が獲物に集中する。
 「例えば岩場にアワビを発見したとするよね。そしたらノミ≠ナ岩にへばり付いたアワビを剥はぎ取る。ノミ≠チていうのは金属製のヘラで、長さは30センチくらいのものと10センチくらいのものがあるけど、俺は長いほうを使っているんや」
 ノミの先端の鍵型になっている部分をうまく使って見事アワビを手にしたら、水面に上がってタンポの中に入れる。この一連の作業を午前と午後で約2時間ずつ行い、収穫物を漁協に卸す。日によって価格は上下するが1日1万8千円〜3万円ほど。ここから数パーセントを舟賃として払い、残った分が杉浦さんの収入となるが、漁協で決められているアワビ漁の期間は5月1日〜9月14日で、そのうち天候が悪い日や波の高い日は漁に出られないため、出日(漁に出る日)は限られる。昨年の例で60日。この収入だけでは奥さんと子供2人を養っていけない。

スタートは定置網漁

潜水用メガネも大事な道具の1 つ
 もともと大阪市内にある若者向けのアパレル会社でショップバイヤーとして働いていた杉浦さんは、26歳のときサーフィンが縁で志摩にやって来た。そこで大好きな海に関わる漁師になりたいと思うようになり、ピザ屋の店員やバーテンダーをしながら口コミで漁師の仕事を探した。
 1年ほど経ったころようやく知り合いの紹介で乗ることができた定置網漁の船で、初めての仕事に戸惑いながらも2年半、漁師としての経験を積んだ。その後、同じ定置網漁で船を変わって2年半、さらに巻き網漁船に乗り換えて1年経ったところで、自営の漁師になることを決めた。給料もそれなりに安定していたのに、なぜか? その一番の理由は労働時間。夕方5時に出勤して船に乗り、翌日の昼に仕事が終わる。昼夜逆転の生活は、結婚して1人目の子供が生まれたばかりの杉浦さんにはつらかった。もう一つの理由は「伊勢エビの刺し網漁をやりたいと思ったから」。
 いくつかの船を渡り歩いているうちに、杉浦さんは漁師に関するさまざまな情報を仕入れ、知識を身に付けていた。そこで伊勢エビの刺し網漁に興味を抱き、海士という仕事も知った。「刺し網漁で漁師として独り立ちしたいというのが、まず最初にあってね。でも、漁の期間が決まっててそれだけだと収入が確保できんから、海士も組み合わせることにしたんや」。
 この決断に奥さんの両親が猛反対した。サラリーマン漁師であれば生活は安定する。特に、巻き網漁船は収入も高くマイホームも建てたところだった。何とか収入の安定した道に戻るよう説得されたが、意志は固かった。

自分の成長を実感

アワビをGet !
 独立すると決めてから、10月1日〜4月末は知り合いの親方を手伝いながら刺し網漁の修行をし、5月1日〜9月14日はこの親方のツテで海女の舟に乗り込むようになった杉浦さんだったが、実は素潜りの経験ゼロ。持ち前のチャレンジ精神だけが頼りだった。
 初めて潜ったとき、仕事の手ほどきを受けた海女さんに「ここにアワビがあるでしょう」と指し示されても、岩と同化しているアワビを見分けることができなかった。ようやく見分けられるようになったら、今度はノミで傷つけてしまい、値段が半額に。「1日の収入がたった3千円ということも、よくあったね」と今でこそ笑って話せるようになったが、当時は焦りもあったという。
 アワビ漁の期間は、想像以上に体力を使って体重が落ちる上、水圧のせいか耳が聞こえにくくなる。猛毒を持つというクロエイに襲われたり、獲物を探すのに夢中になるあまり呼吸の限界を超え、慌てて水面に上がった際に岩に頭をぶつけてケガを負うなど、危険な目に遭ったこともある。

複数の海士、海女とともに舟に乗り込んで漁場へ
 そんな状況であっても、海士として自分の成長が実感できるのが嬉しいという。「最初は2メートルしか潜れなかったのが、今では10メートルになり、獲物を見つける時間も早くなったんや」。5〜6メートルのところで漁をする海女さんが多い中で、10メートル潜れるというのは強みになる。
 杉浦さんが描くビジョンは、志摩の漁業海域でできるさまざまな漁法を組み合わせた漁。伊勢エビの刺し網漁を柱に、海士としてアワビ漁やナマコ漁もやっていきたい。そのためにも近い将来、自分の船を持とうと貯金もしている。もう後には引けない。「迷惑かけるけど、頑張るから」という言葉を信じてくれている奥さんのためにも、前に進むしかない。
<志摩の国漁業協同組合の概要>
設立:2002年7月1日(志摩郡阿児町、大王町、志摩町、浜島町の18漁協が合併)
支所数:18支所
組合員数:正組合員3,638名、
准組合員3,151名
職員数:67人
販売取扱高:43億円
購買供給高:12億円
主な魚種:伊勢エビ、アワビ、サザエ、アジ、サバ、カツオ、タイ、フグ、アオサ
【No.4(2006年冬号)掲載】
 
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