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故郷の資料館をUターン館長が再生

広島県庄原市 口和郷土資料館
館長 安部 博良さん

「定年後は口和へ帰ろう」とすすめたのは妻のミヨコさん。
資料館の運営も二人三脚だ
 安部博良さん(64歳)は2002年、故郷の広島県口和町(現庄原市)に移住。ソニーの技術者として40年間活躍し、定年後は田舎で「大好きなジャズを大きな音で聴きたい」と考えていた。車の修理、アマチュア無線、日曜大工……趣味も豊富で、自然豊かな故郷で悠々自適な生活を送るはずだった。ところが――

蓄音機の音に涙ぐむ女子高生
 ある日、町の教育委員会から「郷土資料館の館長に」という話が舞い込んだ。そこは30年ほど前に廃校になった分校の校舎を活用した「口和郷土資料館」。石器や土器、民具などが展示されていたが、訪れる人も少なくひっそり静まり返っていた。埃まみれの展示物のなか、最初に目に止まったのは手回し式の蓄音機と10枚のSPレコードだった。
 

蓄音機の音には、デジタルにはない魅力があると力説する安部さん
「まだ使えるのに、打ち捨てられて悲鳴を上げている。直さなければ」
技術者魂に俄然火がつき、見事修復。その蓄音機を使ってコンサートを開いたところ、40人もの住民が集まった。最初にかけたのは東海林太郎のSPレコード。「いい音ですね」と好評を博した。すると安部さんは、蓄音機を携えてあちこちで出前コンサートを開くようになった。ある高校に出向いたときのこと。
 「江利チエミさんが14歳のときに録音した『テネシーワルツ』。女子高生が涙ぐんで聴いていました。『胸にじーんときました』と。うれしかったですね」
 蓄音機コンサートが話題になるにつれ来館者も増え、なかには眠っていた蓄音機や、SP盤を寄贈する人も現れた。館長室はほどなく「修復室」に。蓄音機、レコードプレーヤー、オープンリールのテープレコーダー、真空管ラジオ、写真館のカメラ、白黒テレビ……すべて館長自ら修復している。

映画館の映写機も復活
 最も苦心したのが、地元の映画館で使われていた映写機。サビだらけでとても使える状態ではなかったが、「仕組みが分かれば絶対直せる」と夢中で分解・修理。16mmや35mm映画の上映会も開けるまでになった。
 「ここにあるのは、生活のなかにあったものたちばかり。展示物にじかにどんどん触れてほしい」
 資料館のイベントのポスターやチケットもすべて手作り。会場の準備も設営も妻・ミヨコさんと二人で手がけている。
 「退職前より忙しい毎日です(笑)」
 SP盤のコレクションは5000枚を超え、今やアナログファンにはたまらない“聖地”になりつつある。「都会にあれば、大入り満員間違いなし」との声もあるが、安部さんは「周囲を気にせず心ゆくまで楽しめる。ここにあるのがちょうどいい」と語る。
 オーディオマニアや団塊の世代に愛される場所になるのは間違いないが、これからはむしろ、子どもたちの学習に役立てようと画策中だ。
 「なぜテレビは映るのか。CDから音が出るのか。基本的な仕組みを伝えたい」
 Uターンした技術者が、小さな資料館で孤軍奮闘。数々の音や映像を蘇らせながら、「音と映像の歴史ミュージアム」が生まれようとしている。
【No.5(2007年春号)掲載】
 
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