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| 「海が好きだ」の気持ち一つで飛び込んだ |
秋田県男鹿市 武田水産株式会社 杉渕 勇希さん
菅原 槙也さん |
秋田県西部、日本海に突き出た男鹿半島は、鬼の面にケラミノ、ハバキを身に着けた「なまはげ」が木製の包丁を振りかざして家々を訪れる風習で知られる。半島の先端部、入道崎近くにある畠漁港(男鹿市)に続く道沿いにも、所々になまはげの像が立っていた。
このあたりは、なまはげの荒々しい振る舞いにも似て風が強い。取材の日も初冬の冷たい風が吹きすさんでいた。そんななか、北の海で独立漁師を目指す心境を、若き漁師に聞いた。
海洋高校で漁を体験、漁師の道を目指す
「おいだば、ちいちゃいころから海さ興味があったから、自然に漁師さなった」と、杉渕勇希さん(21歳)は開口一番に語った。目前に広がる日本海を見て育つうち、自然と海が好きになった。それがいつしか「海に関係した仕事に就きたい」という思いとなって輪郭が現れてきた。しかし家は漁家ではない。杉渕さんは地元の海洋高校への入学を決意する。
授業ではさまざまなことを体験した。なかでも刺し網漁やイカ釣り漁の体験は「面白かった」という。「海に関係した仕事」という思いは、やがて「漁師になりたい」という現実的な「目標」となっていった。
菅原槙也さん(20歳)も同じ海洋高校卒業だ。父親の趣味が釣り。「よく連れていってもらいました。だからわりとすんなり漁師の道を選択しましたね」と、漁師を職業にした理由を語った。
しかし、二人とも漁師という職業は未知の世界。飛び込んでみて、自らの力で道を歩んできた。このエネルギーの源は「海が好きだ」「漁師が好きだ」という一途な心情である。
漁業部門の第一期生として就職
二人は高校卒業と同時に、地元の活魚水産加工の武田水産に就職。会社内に発足したばかりの漁業部の配属となり、漁師になった。会社員でもある。
漁業部というのは、それまで鮮魚卸、水産加工をメインとしてきた同社が業務を拡大するために発足させた組織。勇希さんは、漁業者育成を推進するために秋田県が実施する「Aターン漁業者育成事業」を活用して研修を受けている。「Aターン」とは聞き慣れない言葉だが「秋田」の頭文字を取ってつけられたもの。この制度については後述する。

同僚であり同級生でもある杉渕勇希さん(左)と菅原槙也さん(右)。時には漁の相談もする |
就職後、この新たな部署で3年間仕事をしている。しかし「まだまだですね。研修を受け始めたのは2006年から。あと少し研修が残っているんですよ」という。漁の主な魚種はヤリイカ、ブリ、タイ。第二十八喜久丸(19トン)での大型定置網漁である。
朝5時起床、6時出港、10時に帰港。12時ごろまで水揚げ作業を行う。水揚げ作業には、魚の選別、箱詰め、計量、出荷などが含まれる。その後は網の補修。これが午後4時ぐらいまでかかる。一日の大まかなローテーションだ。漁の多寡によって水揚げ作業が延びることもあるが、基本的に夜、仕事をすることはない。日の出とともに仕事が始まり、日没とともに終わる。「仕事の後の時間はかなりゆっくり使える」という。ただし、定休日は月3日間。必要に応じて休みを取るが、漁の具合や会社の都合で、そうそう勝手に取れるものではない。
「映画にも行きたいし、友達に会いたいときもありますよ」
しかし、そうした気持ちを抑えて漁に精を出す。
「だからこそ、魚がいっぱい捕れたときはうれしいですね」
独立した漁師ではないので水揚げがすべて収入に結びつくわけではないが「これは銭金の問題ではないんですよ」という。
「やはり独立」は、将来の夢
お金をためて漁船を買い、独立経営の漁師になるのが勇希さんの夢。給料は、手取りで16万円と少し。これに昼食代と年二回のボーナスがつく。
奥さんとは社内結婚。それもあって仕事に理解を示してくれ、将来の計画や夢については賛同を得ている。同じ思いで夢に向って進んでいける。これが何よりの原動力となっているのだ。

漁が終わったらすぐに水揚げ作業 |
「でも、独立はもっと先ですよ。まだまだです」
大型定置網漁はチームで操業する。だから10人が息を合わせないと仕事がスムーズに運ばない。3年の経験があるとはいえ、ベテラン漁師から見れば新人ということらしい。たまに手順が悪くて叱られることも。「そういうときは、さすがに気が滅入ります」というが、それは「自分が怪我をしないための、先輩からの教え」なのだということもわかっている。わかっているからまた頑張る勇気が湧いてくるのだ。
漁師になるには、どんな心構えが必要かという質問には、先輩のいうことを聞いて、あきらめず、我慢強く努力することが大切だと答えてくれた。「ちょっとした困難ですべてを投げ出したりせずに、耐えていけば、きっといい結果が待っているんじゃないでしょうか」とも。インタビュー中は、終始寡黙。しかしポツリポツリとはき出される言葉は、熱い思いを抱いていることを感じさせる。
「秋田」の「あ」でAターンと名づけた漁師育成事業
秋田県農林水産技術センター水産振興センター普及班の船木勉さんによると、Aターン漁業者育成事業は「漁業で自立を希望する人に対して技術指導を行う目的で実施している」とのこと。県が研修者の受け入れ先の会社や指導者に一年間委託して実施している。平成18年にも新たに2人を研修生として受け入れたという。
船木さんに水産業の現状をたずねると「浜に活気がない」と一言。そして「若者を確実に水産業に定着させて、昔のような活気のある水産業を復活させたいんです。この記事を読んで水産業に就きたいと思った人は、水産振興センター普及班までぜひ、連絡をください」と締めくくった。
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Aターン漁業者育成事業
●研修者対象要件
下記要件のいずれかに該当し、年齢は原則として40歳未満とする。
1 秋田県出身者で県内にUターンし、漁業への着業を希望する者
2 県内に在住し新たに漁業への着業を希望する者
3 新規学卒者で県内での漁業への着業を希望する者
4 県内漁業者の子弟で親、兄弟とは異種の漁業へ着業(独立)を希望する者
5 県外出身者で県内の漁業に着業を希望する者
●研修内容(研修は原則3年以内)
1 漁労作業及び操船技術
2 漁船機関類及び各種機器の使用方法と保守点検
3 漁具の補修及び漁獲物の処理
4 漁業に関する基礎的知識
(観天望気、天気図の見方等)他
●問い合わせ先
〒010-0531
秋田県男鹿市船川港台島字鵜ノ埼8-4
秋田県農林水産技術センター
水産振興センター 普及班
TEL:0185(27)3003 FAX:0185(27)3004 |
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| 【No.5(2007年春号)掲載】 |
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