ここから始まるI・J・Uターン

陶芸を通じて自然と向き合う生活
栃木県益子町 小野 悦子さん
益子町の持つ独特の包容力
 

「新しい工房が2月に完成するんです」と小野さん


高さ1.5m、胴回り4m以上という益子駅前の「五尺大瓶」。地元の作家、大塚昌三さんの作品


ろくろから下ろしたばかりの小野さんの作品。丸みを帯びたフォルムが温かみを感じさせる
真岡鐵道の益子駅改札口を抜けると、陶芸の里を象徴する「五尺大瓶」が乗客を出迎える。高さ1・5m、胴回り4m以上の巨大な水瓶は、温かみのある曲線を描く典型的な益子焼だ。
 「この町は見ず知らずの人を受け入れるおおらかさがある。だから、ここに移住しようと決めたんです」と小野悦子さん(34歳)。益子町には、陶芸を志す者を、地元の人や陶芸家が損得抜きで育てる風土があるという。小野さんが工房を構えるまでの間には、そうした土地柄を表すような、人情味あふれる、二つの大きな出会いがあった。ひとつは、益子に活動拠点を置く陶芸家、鈴木秀男氏。もうひとつは、「指導所」と呼ばれる栃木県窯業技術支援センターだ。
華やかな経歴から陶芸の世界へ
 小野さんがこの益子町にたどり着くまでの経歴は、陶芸からも、田舎暮らしからも、かなり離れた世界だった。中学・高校をイギリスで過ごし、18歳で帰国子女枠で東京大学に入学。卒業後、国内のテレビ制作会社勤務を経て、渡米。日本テレビのニューヨーク支社に5年間勤務した。当時、邦人が開催する陶芸教室に通い、それがきっかけで、「本気で陶芸がやりたくなった」自分に気づいた。
 30歳で帰国。米国在住時からインターネットで下調べしておいた益子町の指導所へ。1年目は無料、2年目も月額3千円、という授業料の安さが決め手だった。しかし、試験の結果は不合格に。
 「町の雰囲気はひと目で気に入ったので、これで帰ってしまうのはもったいないと思ったんです。そこで、民芸店で見た器の中で一番気に入った陶芸家を訪ねました」
 突然の申し出だったが、鈴木秀男氏は会うことを快諾してくれた。「陶芸家としても、人間としても、魅力のある方。その生き方に大きな影響を受けました」と小野さん。弟子はとらないといわれたため、なんとか地元の工房にもぐり込んで益子にとどまり、彼の工房に通い詰めたという。そのバイタリティは、現在に至るまでの、彼女の凛とした力強い生き方と重なる。
 また、同時期に就職した工房でハードワークをこなす日々が続いた。ここで陶芸の基礎を学んだが、「一人前にならないうちに後輩を教える立場に立つシステムに疑問を感じて」1年足らずで辞めたという。
 だが、その経験を無駄にせず、鈴木氏のアドバイスを受け、指導所の試験に再チャレンジ。今度は、見事合格する。
 「地元の工房に就職した事実や、1年間町で暮らした実績から、『本気で移住する意志がある』と評価されたんじゃないでしょうか」

陶芸修行、そして田舎暮らし


小野さんの後輩にあたる、栃木県窯業技術支援センターの伝習生たち


ろくろを回す小野さんの横顔は、集中した様子ながら、リラックスした表情でもあるのが印象的


土練りをする小野さん。手慣れた手付きで練る姿に、今まで培った技術が垣間見える
 指導所には、16〜30歳くらいまでの生徒が集まっていた。半数強が地元の窯元の後継者、残りが県外から来た陶芸志望者というクラス構成。1年目は伝習生としてろくろ回し。研究生になる2年目は、ろくろ・釉薬・石膏型の三つから専門授業が選択できる。小野さんはろくろを選択したが、結局、ほかの二つも基礎的なことは覚えた。
 「自発性を重んじているので、本人のやる気さえあれば何でも覚えられるんです。窯元の後継者の方は卒業後もご家族から学べるでしょうが、私のような窯業と無関係の者は、指導所にいる間に貪欲に勉強しないと」
 そして06年春、無事に卒業。しかし、学生でありながら、2年生の夏から空き家になった工房を居抜きで借りていた。
 「益子焼協同組合に材料の土を買いに行ったときに、ちょうど空き家の貼り紙を見つけたんです。家賃も安かったし」
卒業前から工房を借りていたというのが、いかにも積極性と行動力を兼ね備えた小野さんらしいエピソードだ。現在も、その工房で制作活動を行っている。
 もちろん、陶芸で食べていくのは正直いってむずかしい。それでも、鈴木氏の生き方を見習って「生活を楽しまないともったいない」と明るい表情で語る。
 「器は土でできているので、自然とつながっていますよね。自然界はいろんな生き物によって支えられている。だから、人間も含めて皆『生かされている』。私は陶芸作家になりたいというよりは、田舎で自然を学びながら、生活を少しずつ手作りしていけたらいいなと思っているんです。だから今、とても幸せですよ」
<栃木県窯業技術支援センターの概要>
センター長 阿久津正敏
所在地 栃木県芳賀郡益子町益子695
TEL  0285(72)5221
【伝習生募集要項】
募集人員 10名以内
応募資格 下記・〜・の要件を満たす者
・義務教育修了者で満40歳未満の者
・入所時には県内に居住している者
・県内で窯業業務に従事している、または将来県内で窯業業務に従事しようとする者
・心身が健康な者
入所方法 一次選考(書類審査)
       二次選考(小論文および面接)
【No.5(2007年春号)掲載】
 
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