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発想の転換が新たな道を拓く大多賀山林発、新ビジョン
三重県海山町 速水林業 速水 亨さん
プロフィール
速水亨(はやみ・とおる)
1953年生まれ。慶応義塾大学法学部卒業後、家業の林業に従事。その後東京大学農学部で研究。2000年2月FSC認証(森林管理協議会)取得。2000年10月、国連大学主催のシンポジウムに日本のパネラーとして参加。2001年4月、国連大学主催第2回ゼロエミッションフォーラムで基調講演。2001年4月第2回朝日新聞「明日への環境賞」森林文化特別賞受賞。農林水産省や三重県、海山町の審議会委員などを歴任。
 速水林業に訪ねて来られた方には、先代が何十年も前に植えたイチョウの木々が見えるこのテラスにまず、ご案内します。四季をとおして景観を楽しめますが、イチョウの落ち葉で地面が一面、金色になるこの時期が、とりわけ美しい。この季節だけは「落ち葉の上を車で通るな」と、職員にいってあるほどです。イチョウの向こうが大多賀山林。うちで所有している森です。この地から、さまざまな新しいこと、実験的なことを発信してきました。

 日本の林業はいま、おかしなことになっているんです。悪循環に陥っています。昭和30年代の木材輸入自由化によって輸入材のシェアが序々に増加する一方で、国産材は減少の一途をたどってきました。現在、国産材のシェアは市場の2割を切り、価格はピーク時の半分です。以前の国産材の値段があまりにも高かったので理解できなくはないですが、下がりすぎですね。林業を事実上放棄する林家が増え、林業に携わる人も大幅に減少しました。手入れがされずに荒れる一方の森林が増加しています。「森林が国土を守っている」という認識に立ったとき、これほど杞憂すべき状況はないといえるでしょう。
 林業の事業体は再び体力をつけなければなりません。自力ではどうにもならないという理由で公共の事業に頼ってばかりでは、いつまでたっても回復は見込めない。新たな事業を運営している事業体も増えましたが、本当の意味で体力を回復するには、林業あるいは、そこから波及するビジネスだけで経営が成り立つよう考えなければならないと思います。
 では、どうしたらいいのか。むずかしい問題です。しかしそれでも我々は前に進まなければなりません。

 改革を図ろうとするときに大切なことは、徹底的にいままでのやり方を疑うことだと思います。なぜその作業や工程を踏まなければならないのかを、基本に立ち戻って考えるということです。
 例えば、林業の作業の一つに、木の成長を妨げないよう下草を刈る「下刈り」というものがあります。これはかなりの労働力を必要とするんですね。植林をしたときはその山全体の下草を刈っていくわけですから。そこで、疑います。「そもそも下刈りは本当に必要だったのか。惰性でやってきただけではないのか。下刈りをしなくてすむ方法はないのか。あるいは、下草があっても木がまっすぐ育つ方法はないのか」と。
 このように考えていくと、どんどん無駄が省かれていく。効率化を推し進めれば、コストダウンにもつながっていくはずです。
 これと同様に、生産性の向上でいうと、これからの林業に不可欠なのが林業作業道の整備です。大型の高性能機械を使った効率的な木材搬出は、欠かせない点だと思います。
 また、これは速水林業のやり方ですが、高品質な木材の生産を目標に据えています。輸入材と競合する一般材よりは、優良材のほうが優位性を保つことができるからです。それでも「コストをどこまで下げることができるか」ということが重要でしょう。コストダウンに必要なのは? そう、先ほどいった徹底した効率化。これらをうまく連動させながら舵取りをしていく「経営」的な視点を養わなければ、時代を乗り越えていくのは難しいのではないかと思います。
 また、輸入材とやりあっていく以上、国内だけに視点をあてていてはだめだと思いました。速水林業がSFC認証(適正な森林管理が行われているかの国際認証)を取得したのも、グローバルスタンダードの視点で経営をチェックしたかったからです。。


大多賀山林のイチョウ並木。金色のじゅうたんを敷き詰めたような見事な景観
 私はいまも毎日「何か新しいことをやろう」と考えているんですよ。この前、仕事でアフリカに行ったときにも一つアイデアをもらいました。
 林業の作業のなかで、なかなか効率化が図れないことの一つに植林が挙げられます。急峻な斜面を登っていくので、機械は入れません。人間が背中に苗木をしょいますが、いま育てている苗は土がついたままでないといけないため重い。1回に持っていける苗木の量には限界があります。
 一方、アフリカの農村ではまだほとんど機械化が進んでいなくて動物にいろいろな仕事をさせていたんですよ。とくに山岳地帯ではロバの背中にたくさん荷物を運ばせていた…。もうおわかりになったでしょう。そうです。その風景を見てひらめいたんですよ。「苗木をロバに運ばせることができないだろうか…」と。
 このアイデアがひらめいたときは、我ながらうれしかったですね。いま、ロバを調達できないか知人にあたっています。1〜2頭ならすぐにでも何とかなるでしょう。試しにやってみますよ。日本の山林を、ロバが苗木を載せて闊歩する。考えただけでも楽しみではないですか?
 速水林業では、確かにいち早く大型の機械を導入してその性能や効果を検証し、広めることに努めてきました。しかし目的は効率化であって機械化ではない。だからこそロバだっていい。ビジネスにはこういった発想の転換がとても大切だと思いますね。
【No.5(2007年春号)掲載】
 
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