ここから始まるI・J・Uターン
荒れる農地を守り次世代へつなぎたい
山梨県北杜市
安藤 友彦さん

今年の4 月からトラクターを導入。年間約50 種の野菜を栽培して、直売所で販売する予定
別荘地を求め、夫婦で武川村へ
 遠く甲斐駒ケ岳を仰ぎ見る、山梨県北杜市武川町(旧・武川村)へ、安藤友彦さん(64歳)・和代さん(62歳)夫妻がやってきたのは1994 年。友彦さんは、事務機メーカー(株)リコーで、長年事務用ファクスの開発設計を担当していた。生まれも育ちも東京。早くから「定年後は田舎暮らしを」と考え、在職中から別荘地を探し歩き、新聞広告でたまたま目にした「南アルプスが見える別荘地」を選んだ。当初は別荘住まいをしながら週末農業を
楽しみ、定年後は自給自足的な生活を楽しむつもりだった。ところが。

近所の農家の人たちが栽培指導
 農業経験のない安藤夫妻は、別荘ではなく、「武川に本格的に永住しよう」と決意して、30坪ほどの土地で野菜づくりを始めた。見様見真似でいろいろつくってみたが、最初から畝を立ててネギを植えようとしていると、通りがかりの農家の人が「全部青いネギを食べるのかい?」。里芋を植えていると「それじゃ深すぎて芽が出ない。やり直し」。白菜の苗の植えつけは「根が弱いから、そっと赤ちゃんを扱うように」などと声をかけてくれる。そんな助言を素直に聞き入れ、交流を深めるうち、地元の「組」への加入を認められた。都会からの移住者はほかにもいるが、住民として認められたのは、安藤さん夫妻が初めてだった。
 「移住するなら、都会の空気や常識を持ち込まないことです。都会の人間には一見不合理に見える習慣にも、ちゃんと村の歴史と理由があるのだから」
 種をまくときも、肥料を選ぶときも、必ず地元の人に相談して決める。そんな姿勢と、技術者特有の探究心が実を結び、野菜づくりの腕前はみるみる上達。いつしか「うちの畑を借りてほしい」といわれるまでに。20アールの畑で野菜をつくり、地元の直売所で年間50 種もの野菜を販売するようになったが、なかでも「安藤さんのニンニク」は、評判が高いという。


暖炉用の薪割りもお手の物。「近所の方が間伐材を分けてくれるんです」
63歳で農大へ。次の世代につなげたい
 週末農業からスタートして、05年に退職。地元の人たちに学びながら、栽培と出荷を続けていたが、06年の春から山梨県農業大学校の新規就農希望者研修(基礎コース)への入学を決意した。
 「値段をつけて野菜を販売するなら、もっとちゃんと勉強しなくては」
 応募条件は「おおむね60歳未満」だったが、熱意が伝わり63歳で入学が認められた。大学校では土壌や機械、経営に関する講義のほか、週2〜3日は研修農家での実践がある。授業は月〜金曜の朝8時30分〜16時30分と、かなりハードなカリキュラムだが、安藤さんは無遅刻無欠席。在学中、けん引(農耕車限定)運転免許や、就農計画認定も取得した。
 「有機肥料の過剰な投入は環境汚染につながるし、トウモロコシも好き勝手な品種を植えると、周りの畑と交雑して食味が落ちる。移住者が作物を出荷するなら、ちゃんと勉強するべきです」
 周囲の農家は高齢化が進み、生産者の大半が70 歳以上。後継者もなく荒廃した農地が広がっている。
 「私が80歳までやり続けても、あと15年。お世話になっている農地を維持して、次の世代につなぎたい」
 この春から借地を60アールに拡大し、山梨県から新規就農者としての認定を受け、補助金と自己資金を合わせて300万円で、トラクターや軽トラなどの資材を購入。いよいよプロの農家として、本格的に栽培をスタートする。
【No.6(2007年初夏号)掲載】
 
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