ここから始まるI・J・Uターン

暮らし、働くなかから
見えてきた夢の形
佐賀県佐賀市 富士大和森林組合 永峯 貴志さん
平城 隆一さん

数百匹のクワガタと山の一軒家で暮らす永峯さん
夢は「クワガタ園」OPEN!
 「富士大和森林組合には『クワガタ君』と呼ばれているUターンの人がいてクワガタの話をしたら止まらないんですよ」
 とは、全国森林組合連合会が各地の森林組合を舞台に主催する「林業見学・交流ツアー」の取り仕切り会社でマネージャーを務める人からの話だ。同組合事業課長の勝山正弘さんにその話をすると、笑いながらうなずき「私なんて面接で1時間もクワガタの話を聞かされたんですよ! こっちが質問する側なのに」
 そんな話をしながら到着した現場は、木材を運び出す道路を整備しているところだった。作業の一団から一人、白いタオルを巻いた頭をなでながら近づいてきた人がいた。クワガタ君こと、永峯貴志さん(32歳)だ。

「間伐材を利用したプランターづくり」は勝山さん自ら子どもたちに指導
 東京のIT企業で3年ほどプログラマーをしていたが、父が倒れ、地元、北九州に戻った。ほどなくして昔趣味だった昆虫採集を始めたら「はまってしまった」という。そんなときに母から「新聞広告で見た」と、先ほどのツアーのことを知らされた。
 「こういった仕事なら、クワガタの近くで暮らせるかもしれない」ツアー参加がきっかけとなり、組合で職員募集の際、連絡があった。面接での様子は前述のとおりだ。
 後で勝山さんに「採用の決め手は?」と、聞くと「強い動機がある人は、辞めないから」とのこと。納得の回答だった。

組合の直売所「こだまの里」で販売されている永峯さんのクワガタ
 就業から2年。永峯さんにはいま、夢がある。循環型の「クワガタ園」を開こうというのだ。クヌギの苗等を育てながらクワガタを売る。シーズンオフはキノコを売る。アイデアは尽きない。趣味のクワガタ、森の仕事、山での暮らし。そのなかから見えてきた「夢」。照れながら語るその表情は輝いていた。

夢は森の代弁者
 平城隆一さんは、とつとつと思いを語るところが印象的な53歳。森の縁まで歩いてきたとき「座りましょうか」とうながされ、車座になった。
 前職を聞くと、下を向いて「まあ、いろいろですよ」と、ニヤリと笑う。「最初はいわゆるファッションコーディネーター。服の販売ですね。その次は美容師か。直近は、造園を10年くらいかな」と教えてくれた。森林の仕事に就いたのは環境への興味からだという。

北九州から単身赴任の平城さん。週末は奥さんとスキーや山歩きを楽しむ
 「でも、若い人にこの仕事を勧める自信はないなあ。来てほしいのはやまやまだけど給料が安いからなあ。経済的な側面以外に価値観を見出さないと。私の三人の子どもは、一人は今年大学卒業で一人は新年度から留学。育英資金などでなんとかやっています。だからこの仕事に転職できたともいえます。子育て中だったらとても…」
 林業が抱える問題は、国政レベルで考えていかなければと説く平城さん。
 「林業はいま、木材を供給するという使命だけでなく、環境への貢献でも注目されているでしょう。これは本来、国が担うようなことです。なのに、森の仕事をする人間があまりにも軽んじられている。フォレスターといったら、北欧では消防士と並んで子どもたちが憧れる職業と聞いています。もちろん一概には比べられませんが。でも、地域の組合が自力で何とかできる範囲はわずかなものです。国からもっと手厚い補助があっていいんじゃないか…。古湯にやって来て、森の仕事に就いてから、こういう思いがだんだん強くなってきたんですよ」

本誌5 号を見ながら高性能機器の話題で盛り上がる職員の人たち
 そのためにできることは何か? と考えたとき、政治への関心がわいたという。平城さんはいま、地域の世話人や佐賀市審議会の委員などにも参加している。けれども「意見をいうだけの立場」ではなかなか思いは届かない。「ならば」というわけだ。
 「皆の不満や希望を形にしたいと」単身で暮らし、森で働くうちにつのってきた思い。静かに、しかし熱く語る視線の向こうに平城さんの「夢」が見えた。

攻めの姿勢でビジネス展開
 先も触れたが、二人が勤める同組合は、職員を募集する際に、過去の「林業見学・交流ツアー」参加者に声をかけるなど、地元出身以外の人材を積極的に受け入れているのが特徴だ。冒頭のマネージャーが「富士大和森林組合は、I・J・Uターンの人が多いんですよ。みんな個性的で明るい職場ですねえ」といっていたことを思い出す。
 代表理事組合長の松原さんにそのあたりを聞くと、職場の雰囲気や、新人や班長の育成方法などには気を使っているという。「危険をともなう仕事ですから、その点をきちんとケアしないといけない。それが安全につながります。毎日みんなが無事に現場から戻ってきてくれるまで
は心配なんですよ」と話してくれた。

間伐材を切る平城さん。こうして間引きを行って森に光を入れ「育てる木」を守る
 また同組合では、直販所「こだまの里」を設けて間伐材を利用した木工製品を販売するほか、小学校用のイスと机を地域の家具メーカーと開発するなど、積極的に事業の多角化を図っている。地域のイベントで「ぜひやってほしい」とひっぱりだこという、間伐材を利用した木工教室や、子どもたちを対象とする森林教室など、林業の啓蒙も兼ねた活動にも意欲的だ。
 事業で中心となるのは先述の勝山さん。サポートするのは、新卒として組合に就職した川
埜ゆかりさんだ。大学で森林環境などの専門知識を学び、森林教室では「川埜先生」となって子どもたちに森や山の仕組みを教えている。
 佐賀市内から車で1時間。古湯の里は、森を守り、森を生かす新たなエネルギーに満ちていた。
<富士大和森林組合の概要>
所在地:佐賀県佐賀市富士大和大字古湯2794
TEL:0952(58)2031
URL:http://www.fujiyamato-mori.or.jp/index.html
組合員数:1,622 人(平成17 年8 月末)
●森林組合の直売所「こだまの里」
所在地:佐賀市富士町大字古湯字矢櫃3-1
TEL:0952(58)2022
定休日:火曜日
取扱商品:山菜、きのこ、森林香、イチョウの木のまな板、イス、テーブル、すのこ、プランターカバーなど
【No65(2007年初夏号)掲載】
 
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