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情報の収集と分析が
大河の流れる先を導く


茨城県石岡市
つくばね森林組合代表理事組合長 木ア 眞さん
 林業に、いまようやく希望の光が見えてきたと、私は思っているんですよ。遅すぎたくらいですが、国をはじめ多方面にずっと訴え続けてきたかいがありました。国の方針が「森林整備に重点を置く」という方向に変わってきたからです。大きな流れが変わったのだから、林業が置かれた状況そのものも変わっていくでしょう。
 今後はいままでのように木材の利用価値を高めていくといった考えから、森そのものが果たす「環境への貢献」や「共生の森づくり」を中心に考えていくべきだと考えています。そして何より、これらの課題を果たすためには「人材の確保・育成」が重要になっていくのではないでしょうか。

 環境の問題と林業の課題は、切り離せない関係にあるんです。輸入材によって木材の価格が崩壊したことで、日本中に放置林が増えたことはご存知ですか?
 環境の悪循環は、木が過密状態になることで生じます。木が密集した山に雨が降るでしょう。枝が混みあっているから雨水が土に届かない。そうすると保水率が低い山になってしまう。これが鉄砲水の原因をつくるのです。また、枝だけでなく根も浅くしか張ることができない。表土に粘りがない状態になってしまって、こっちは土砂崩れの原因になる。このような状況は主に放置林に見られます。
 針葉樹だから災害を招くのではなくて人工林を放置したから災害を引き起こしてしまうわけです。これ以上放置林が増えたら本当に日本の山は危険なことになってしまいます。
 もちろんこういう状態になったらもう材を採る森としては再生できません。悲しいことですね…。我々は何十年も山に入ってきたから、山の悲鳴が聞こえますよ。木が「苦しくてしょうがないんだ」といっているのがわかるんです。

 しかしこういった放置林でもね、一方で環境に貢献をしているんですよ。なにかというと「炭酸ガスの削減」です。おもしろい試算がありまして、人間一人が出す炭酸ガスは、30.40本の木が吸収する炭酸ガスの量と同なんですよ。緑のほかに炭酸ガスを吸収してくれるものなどない。例え放置林でも「京都議定書」でも定められた、国に対する課題を直接的に果たしているのです。
 ですから防災の問題にしても、炭酸ガス削減問題にしても、山はとても公共性が高い存在だということがいえるでしょう。その経済的価値は80兆円とも試算されています。ですから我々森林組合が核となって、国に対しその見返りを訴え続けてきました。
 それが、いまようやく形になろうとしています。内閣が変わり、環境保全などに予算をかける方向に向かいつつあるからです。希望が見えてきたというのはそういうことなのです。


木崎邸。八郷にはこうした茅葺き屋根の民家が70 数軒も残されており、いま、町を挙げて観光客誘致に力を入れている
 今後は環境保全型の間伐が進むでしょう。材を採るための森を育ててきた我々としては寂しいことで、「今まで何のためにやってきたのか」というやるせない気持ちもありますが、これは、どんな森林組合でも今後考えていくべき方向性ではないでしょうか。
 課題は人材の確保ですね。林業は長いあいだ冬の時代が続いていたため、若く優秀な労働力を育てる余力がありませんでした。致命的な事態です。どうしたらいいのか。難しいことですが、これからは、多くの、さまざまなタイプの人材育成を急がなければなりません。

 森に入ったことはありますか? 手入れされた森は、地面まで太陽の光が届くから明るくてね。山は本当にきれいなんですよ。こうした美しい場所が、地域の「資源」となるんですね。
 そこで森林組合がとるべきもう一つの道として考えられるのが「共生林」への取り組みです。これは先ほどの「環境への貢献」と並行して考えていけることです。森を観光資源としてとらえ、都市部の人を呼び込んで地域活性化の中心的役割を果たしていこうというものです。
 つくばね森林組合では、以前からオートキャンプ場などを経営してきましたが、昨年は「しし鍋祭り」のイベントを開催したんですよ。しし鍋はこの地域独特の「漁師鍋」で、それを猟友会が2日間かけて煮ました。それに特産の新そばとコシヒカリ。おいしいですよ、ここのコシヒカリは。絶品だ。おかげさまでとても好評で、用意しておいた人数の倍の人に来ていただきまして、鍋はすぐになくなってしまいました。
 そのほかの事業として森林セラピーの開催なども模索中で、いまいろいろな調査を行っているところです。
 事業のアイデアですか? 突然思い浮かぶわけではありません。いろいろな情報を集めて分析し、いまの世の中がどう動いているのかを把握するよう努めています。そうすると見えてくるんですよ、次になにをすればいいのかが。
 大河はどこへ、どう流れていくのか。それを把握しておかなければ時代から取り残されてしまう。流れの行く先を見据えていくことが重要なんです。

 八郷はいいところでしょう。驚きませんでしたか。東京から1時間半で来られる距離にこんな桃源郷が残されていたなんて…と。この地域には地磁気の研究所がありましてね。工場など大きな振動を出す企業を誘致できないんですよ。高圧線さえ通せない。商業開発ができな
かったんですね。
 このことが結果的に、昔ながらの風景の保全や「茅葺き民家」の保存へとつながり、いま、八郷の資源になっています。奇跡のような日本の原風景が「ここ」にはあります。
 私はこのすばらしい地域資源と森とを「山里」として一体にとらえ、今後も八郷の将来を考えていきたいと思っています。
プロフィール
木ア眞(きざきしん)
大正13年1月15日生まれ。陸軍士官学校卒業後、終戦により農林業に従事。長年にわたり意欲的に農林業複合経営に取り組んでいる。八郷町助役、八郷町副議長、八郷町農協組合長などを歴任。茨城県森林組合連合会理事等を経て現・会長。1995年農林水産大臣賞、96年第15回農林水産祭内閣総理大臣賞、97年勲5等瑞宝章叙勲、04年茨城県知事表彰(林業功労)など受賞多数。
【No65(2007年初夏号)掲載】
 
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