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島に新風を吹き込んだ
Iターン者の挑戦
島根県知夫村 漁業協同組合JFしまね浦郷支所所属
岩牡蠣屋 加藤 二士さん

生育中のイワガキは1本のロープに50 個ほどかける
移住者には雌牛か漁船を差し上げます!
 東京ディズニーリゾートの13倍ほどの広さに約750人が暮らす、隠岐諸島の一つ知夫里島。島一番の高台である赤禿山からは、エメラルドグリーンの海に浮かぶ近隣の島々や島根半島を一望できる。
 信号機もないこの島で、加藤二士さん(42歳)が家族とともに新たなスタートを切ったのは、小さな新聞記事がきっかけだった。「移住者には雌牛か漁船を差し上げます」過疎化に頭を悩ませていた知夫村が打ち出した苦肉の策に、全国から大きな反響があった。問い合わせ200件のうち80組の家族が島を訪れ、そのなかから最終的に加藤さんを含む5組が選ばれた。
 加藤さんは横浜市生まれ。船乗りにあこがれて進学した水産高校を卒業後、航海士として運搬船や商船に乗り込み、世界の海を渡ってきた。22歳で結婚、二人目の子どもの誕生を機に船を降り、大手物流会社のフォアマン(荷役監督)となった。責任ある職務をこなし、それなりの地位も得たが、仕事に明け暮れる毎日で、子どもたちと話す時間すらない。
 「家族との時間を大切にしながら、自然のなかで暮らせないだろうか…そんな思いを強くしていたときに、知夫村の記事を読んだんです」
 縁もゆかりもない知夫里島だったが、実際に訪れ、人々と触れ合ってみて、心を同じくしていた奥さんとともに「ここならやっていける」という確信を得た。


イワガキの苗を植えつけるための原盤となるホタテの貝殻。一つひとつ穴を開けてロープでつなぐ
イワガキ養殖に見出した一筋の光
 希望を胸に知夫里島の住民となった加藤さんは、約束の漁船のほか、住民登録と同時に与えられた漁協の準組合員資格により漁業権を手に入れた。だが、操船技術はあっても、漁の経験がない。
 「島の漁師が行う『かなぎ漁』を見よう見まねでやってみたんですが、なかなか思うように捕れませんでしたね」
 かなぎ漁は箱メガネをのぞきながら、先端に金属の付いたモリのような器具を使って海底のアワビやサザエを捕る。一人でやる漁だから水揚げに限界がある。水揚げなし=収入なし。島に来てすぐに働き始めた奥さんの収入に家族5人の生活を頼る日々が続いた。「このままではいけない…」あせる思いで訪れた島根県漁業栽培センターで、運命的ともいえる出合いを果たしたのがイワガキ養殖だった。
 カキというと冬のイメージが強いが、イワガキは夏に捕れる。知名度はまだ高くないものの、食通には垂すいぜん涎の的。希少価値があり、東京あたりの店で食べると1個800円が相場という。従来、天然ものしかなかったイワガキだが、島根県内では養殖に成功していた。島根県漁業栽培センターからその話を聞いた加藤さんは、事業の可能性を見出し、新たな挑戦に向けて動き出した。



貝殻に付いたフジツボなどは出荷前にグラインダーで削るだけでなく、生育期間中も形を整えるなどして手をかけている
ネットショップ「岩牡蠣屋」オープン
 イワガキは貝殻に付着して成長する。加藤さんはまず、貝殻を海中に垂らし稚貝が付着するのを待つ天然採苗という方法を試みた。だが、なかなか付着しなかったため、人工的に稚貝を付着させる人工採苗に切り替えた。ここからは、ゆっくり時間をかけて天然育成していくことになる。その期間およそ3年。捕る漁と違って、つくり育てる養殖には時間が必要だ。
 加藤さんはイワガキを育てる一方、販路の開拓にも乗り出した。目を付けたのはインターネット。
 「知夫利島は消費地からすごく遠いというハンディを背負っていますし、漁協を通じた販売ルートもありませんでしたからね。インターネットを活用しない手はないと思いました」
 専門書と格闘しながらなんとか自力でインターネットショップを立ち上げ、さらに、サーチエンジンで上位に掲載されるにはどうしたらいいか、アクセスを購入に結びつけるにはどうしたらいいか研究を重ねた。
 そのかいあってか、出荷に合わせてオープンしたインターネットショップ「岩牡蠣屋」には予想を上回る反響があった。「粒の大きさに驚きました!」「味が濃くておいしかったです!」個人からの注文もさることながら、料理店など食のプロからもオーダーが入る。出荷時期となる春先から初夏までは、対応に追われてうれしい悲鳴を上げるほどだった。このとき加藤さん35
歳。島で生活を始めてから7年の月日が流れていた。
 その後、「岩牡蠣屋」の成功に影響を受け、知夫里島のみならず隠岐諸島全体でイワガキ生産者が増加。生産量が増えた隠岐のイワガキは、県の特産品ブランドとして認定されるまでになった。


透明度が高い隠岐の海は清浄海域となっていて、イワガキの成育に適している
島外出身ながら漁協の組合長に
 ほぼ順調に出荷を続けている加藤さんだが、現在の年間出荷量約1万5千個を、今後は増産していきたいという。イワガキの出荷は1年のうち約3カ月しかないため、それ以外の時期に出荷できる漁獲物も模索中。これらを実現するためにも、後継者となる人材の育成に力を入れていきたいと意欲を燃やす。かつて自分がそうであったように「この島での暮らしに魅力を感じ、ともにイワガキ養殖をはじめ漁業を引っ張っていってくれる若いパワーがほしい」。漁業就業者確保育成センターなどを通じて研修生も受け入れている。

加藤さんが現在所有するイカダは全部で7基
 離島というと閉鎖的だったり保守的なイメージがあったりするが、この島には新しい人や新しいことを受け入れる懐の深さがある。島外出身者でありながら、地元の人に請われ知夫村漁協組合長を2年間務めた加藤さんが、身を持って実感したことだ。もちろん地元の人々のなかに積極的に飛び込んでいき、地道な努力を続け、着実に信頼を得てきた加藤さんの姿勢が認められた結果でもある。
 島外出身者であっても島を愛する気持ちは島内出身者と同じ。Iターン者が吹き込んだ新しい風が、島の明日を切り拓く。
【No65(2007年初夏号)掲載】
 
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