
トマト苗を世話する研修生・土屋ゆきさん |
愛媛県・久万高原町
久万農業公園農業研修センター
愛媛県の久万高原町に、久万農業公園農業研修センターがある。新規就農希望者の研修受け入れ実績は、1998年度からの10年間で23人に上る。そのうち、16人が定住している(表参照)。
新規就農者の高い定着率で定評のある久万高原町の農業研修制度、その秘密を探ってみよう。
07年度2人の女性が研修中

農業公園農業研修センターには、実習温室6棟などがある |
07年4月からは、東京出身の2人の女性が農業研修中だ。
そのうちの1人、土屋ゆきさん(38歳)は、東京都生まれの茨城県育ち。東京農業大学の農芸化学学科を卒業した後、肥料会社に就職した。名古屋市の会社に勤務中は、緑化関係のバーク堆肥を取り扱い、取引のある農業生産者と直接話をする機会が多かったという。そうしたなかで、農業をやりたいという思いがつのっていった。
農業法人への就職も考えながら、06年5月、7月と2度、「新・農業人フェア」に参加した。求人を出している農業法人の面接を受けたが、農業法人も会社組織、会社勤めの経験から、会社組織のなかに入ると自分の得意分野に割り振られてしまうと感じた。そこで「自分で農業経営をして、最初から最後まで農作物の栽培にかかわりたい」と思い、Iターン・自営の農業経営開始を目標と定めた。
06年7月のフェアで、愛媛県のブースを訪れた。そこで出合ったのが、久万農業公園農業研修センターの松本利広主任だ。
なぜ愛媛県か……お母さんの出身地は、松山市の瀬戸内海のミカンの島。夏休みになると、お母さんの実家で過ごすのが楽しみだった。その原体験が決め手となった。
なぜ久万高原町か……すでに10期にわたって新規就農希望の研修生を受け入れている実績があり、定着している先輩たちが大勢いたためだ。町をあげての支援体制が整っていることが、大きな魅力だった。
早速06年8月、久万高原町に10日間の農家での事前研修に訪れた。土は黒ぼく土壌。関東出身者としては、親しみがわいた。久万高原町は、林業の町でもある。木質の材料があるので、「バーク堆肥がたくさんつくれそう」というのが第一印象だった。

久万農業公園には、農業研修センターに加え、久万高原農業公社、久万高原町営農支援センターの事務局がある |
「やっと体が慣れてきた」
農業研修は、07年4月から。2カ月ほど経ったころから、やっと体が慣れてきた。研修中の住まいは、農林関係者の独身寮「やまぶき荘」。朝7時25分に車で寮を出発。7時40分に実習農場に着く生活だ。
農業実習は、温室内でのトマトの養液土耕栽培。土づくり、苗づくりから定植、肥培管理、収穫、出荷販売まで一連の作業を行う。トマト苗に水をやるときは、1から10までゆっくり数えるようにしているが、「せっかちな性格だから、数えるのがだんだん早くなる」と土屋さん。トマト苗のわき芽をとるのは苦ではないが、高い所からトマト苗をつり下げるのはどうも苦手とか。
5月下旬に少し体調を崩した。2日休んだら、トマトの変化に気付いた。「現場で生きているトマトを毎日見ることが勉強」という。葉先が軽くねじれるくらいが、ちょうどいい水分量というが、実際の病気を見たことがないので、少し慌てることもある。
楽しみは、友だちとのメール。トマト栽培風景の写メールも送る。現在、農業公園内の市民農園を1区画借りて夏野菜、ズッキーニやバジルなどを栽培中。「大きく育ったら、夏野菜カレーができる」とメールしたばかりだ。
久万農業公園農業研修センターの新規就農希望者の研修受け入れ実績
受入年度 |
受入者数 |
Uターン |
Iターン |
リタイア |
町外出身者の出身地 |
就農品目 |
1998年度 |
1 |
1 |
|
|
|
トマト |
1999年度 |
3 |
2 |
1 |
|
愛知 |
花・トマト・葉物 |
2000年度 |
3 |
|
3 |
2 |
県内・兵庫・愛知 |
米 |
2001年度 |
3 |
1 |
2 |
1 |
県内 |
トマト |
2002年度 |
4 |
1 |
3 |
|
大阪・京都・神奈川 |
トマト・花 |
2003年度 |
4 |
1 |
3 |
|
東京・大阪・神奈川 |
トマト |
2004年度 |
1 |
1 |
|
|
|
トマト |
2005年度 |
1 |
|
1 |
|
県内 |
トマト |
2006年度 |
1 |
1 |
|
|
|
トマト |
2007年度 |
2 |
|
2 |
|
東京 |
トマト研修中 |
計 |
23 |
8 |
15 |
3 |
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「新・農業人フェア」での久万高原町との出合いによって、土屋さんの農業研修への道が開けた(写真右:高岡センター長) |
新規就農希望者へのアドバイス
農業研修センター長の高岡啓一さんは、「農業が好き」といったあこがれだけでは就農は成功しないとアドバイスする。資金準備(当初資金に500〜600万円)や事前の勉強は必要だ。就農は、「業」を起こすこと。「業」の中でもいちばん難しいのが「農業」だという。また、地域のなかにとけ込むこと。田舎は人のつながりを大事にするところだ、と。
土屋ゆきさんは、「やる気が大切」「お金にはシビアに」「田舎暮らしがメインか、農業での収入確保がメインか、目的をはっきりさせること」と説く。
研修後は、東京で出版社を自営するお父さんといっしょに就農する予定だ。
久万高原町のサポート体制
久万高原町は、新規就農希望者に対する農業研修後、就農時の農地の仲介、就農1年目の補助金助成、専属の農業アドバイザーをマンツーマンで配置するなど、研修後のアフターケアと支援体制を整えている。
農業研修はおおむね2年間。トマト、イチゴの養液栽培や花壇苗生産など施設園芸が中心で、生産実習と合わせて、パソコン、農業簿記など経営知識も習得できる。トマト実習は、ロックウール栽培とスギ皮100%の新素材培地による養液栽培。10アールあたり収量12トンを目標に、夫婦二人をモデルケースにするなら20アール規模の施設栽培を目指す。
研修後の新規就農者には営農支援センター指導班の集中指導、専任アドバイザーの定期巡回(総合指導)、地域別農家アドバイザーの指導、農地相談や定期懇談会など、技術・経営指導の支援を行っている。農業公社による冬季アルバイト先の紹介もある。
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