
「家族で一緒に働けるっていいですよ」と笑顔を見せる後藤さんご夫妻 |
家族で年間12トン
リアス式海岸の複雑に入り組んだ地形を生かし、カキの養殖が盛んな宮城県。生産量で全国2位、経営者数で全国1位を誇る。家族単位の小さな経営体が多く、宮城県漁業協同組合石巻市東部支所でも97経営体のうち77経営体がカキ養殖を行っている。そのうちの一人、後藤章さん(28歳)は5台の養殖施設(筏)を所有し、年間12トンのカキを出荷する。
「カキ養殖のスケジュールは、大きく6月〜9月の育成期間と、10月〜5月の出荷期間に分けられますが、やはり忙しいのは出荷シーズンですね」という一日のスケジュールは、まず、夕方4時に沖へ出るところから始まる。水揚げしたカキは浜に設置された浄化水槽に入れ、一晩、滅菌海水に浸けて洗浄。カキの安全性を高める。こうして浄化したカキは、翌朝7時より家族総出で殻むき作業に入る。後藤さんと両親、祖母、それに今年4月からは妻の千恵さん(28歳)も加わった5人で、一日およそ7700個のカキを一つひとつ殻から出していく。夕方4時まで8時間、途中、昼食で抜ける以外はずっと立ちっぱなし。海風が吹き付ける共同作業所は、生ものを扱うため暖房は入れられない。冬場の水の冷たさを考えると、かなりつらそうな気もするが、「慣れれば平気ですよ。体の疲れも、ほどよい充実感です」と余裕の表情だ。

千恵さんが「始めは手が痛いのがつらかった」というカキの殻むき作業。カキは主に生食用として出荷される |
父の後ろ姿を見て決心
後藤さんは、東京の大学で工学部を卒業した後、Uターンして施工管理者として仙台市内の建築会社に勤めていた。代々カキ養殖を営む家系に生まれ、父は漁協の役員を務めていたが、「お前が好きなことをやれ」といって、家業を継ぐことを強制しなかった。それなのになぜ、カキ養殖を始めたのか?
一つは子どもを自然のなかでのびのびと育てたかったから。もう一つは帰省したときに見た父の後ろ姿。気丈に仕事をしていても、やはり年齢は隠せない。「親父を安心させたい」その思いに千恵さんの理解を得て、3年間勤めた会社を後にした。
進学でよそへ出た子どもが地元に戻らず、やむなく家業を畳まざるを得ない経営者もいるなかで、後藤さんの決心は地元漁業に明るい話題をもたらした。
複合漁業でリスクを回避
カキ養殖を始めて今年で4年目。サラリーマンと比べ自営業はやればやるほど収入に跳ね返ると期待していたが、想像以上に経費がかかることを知った。
その上、昨年はノロウイルスの風評被害により、出荷量が前年度と比べて3割ダウン。このダメージが一家全員の収入を直撃した。次代を担う後藤さんは、「収入確保のため、生産管理や販売方法についても、なにか工夫ができないか考えていきたい」と画策中だ。
石巻市東部支所の組合員のうち40歳未満の後継者で構成されている漁業研究会に所属し、夏季に出荷できるイワガキや高級魚で成長が早いヒラメの養殖の可能性を探っている。彼らを支える阿部和芳支所長は「生産が安定しているカキ養殖ですが、いろいろなリスクも考慮して、漁協としては他の魚種も組み合わせた複合漁業を薦めています」と説明する。
「海の可能性は未知数。だから、やりがいがあるんです」と漁業の魅力を語る後藤さん。よそで学んだ経験が生かされるのは、これからだ。
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