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林業ビジネスモデルを考える日々
徳島県美波町 日和佐森林組合 正木 肇さん

「山の状態は常に変わりますから」と測量の重要性を説明してくれた正木さん。手にしているのはGPS(位置情報システム)の付いた測量機器

30代でかなえた
プロジェクトリーダーになる夢

  正木肇さん(40歳)の子どものころからの夢は「プロジェクトリーダー」になってバリバリと働き、大きなビジネスを動かすこと。 だから大学を卒業して入った会社も大手IT企業。そして30代で夢を手に入れた。
  ところが、夢が現実になってみると「違和感」を感じるようになった。
  「こんな生活でいいんだろうか? 自分はまだ独身だけれど、先輩たちを見ると健康や家庭を犠牲にして働いている。人生にとって大切なことってなんだろう?」
  もちろん、ITはさまざまな面で社会に役立つ。社会に貢献しているというやりがいやおもしろみはあった。が、疑問は膨らみ、それを冷静に見詰めたとき「本当の豊かさを求めて田舎で暮らそう」という思いに至ったという。


毎年6月ごろウミガメが産卵に来る海岸。日和佐の海は美しい

「夏の下草刈り」体験が
就業判断の基準に

  決断してからの行動は早かった。まず、生活基盤を確保するため、得意の情報収集と分析を開始。自然のなかで仕事をしたいという思いもあり、農林漁業の仕事を調べた。
  「その結果、農業は資本や技術が必要、漁師にはかなりの体力が必要ということがわかったんですよ。自分にはどちらもなかった」
「 では」ということで林業に的を絞り、大阪で開かれた林業の就職フェア「森林の仕事ガイダンス」へ。ここで、いまに至る直接的なきっかけとなる出合いに恵まれた。


結婚前のデートスポットでもあった海岸のヤシの木

  「たまたまのぞいた徳島県のブースに、日和佐森林組合の前専務理事がいて、コンピューター化を進めるために適した人材を探しているというんですよ。それで意気投合しまして」と、当時を振り返る。その後、話し合いは順調に進み、「働いてみないか」と誘いを受けた。
  「林業に的を絞ったといっても、体力が続くかどうかわからないでしょう。そこで、いちばんつらい作業を体験させてくださいと申し出たんです」
  組合が提示したのは夏場の下草刈り。体力的には「つらかったですね。日に日にへばっていくのがわかると、組合の人たちにもいわれました。でも体験をしてみて、これならば自分にもできる」という感触を得た。34歳のときだった。


正木さん夫妻と長女の彩月ちゃん

林業のビジネスモデル
をつくりたい

  美波町は旧日和佐町と由岐町が合併してできた新しい町。太平洋に面した温暖な地で、青く美しい日和佐地区の浜はウミガメが産卵しにくることで有名だ。サーフィンをするために移住してくる人も多い。情緒ある古い町並みにはお遍路さんの姿も見かけられる。平地は少なく、そのため昔から林業が盛んに行われてきた。
  林業に縁のなかった正木さんは、当初森林作業員として入ったが、日和佐森林組合に来て3年経ったとき、職員に「空き」ができた。ちょうど林業全体や環境問題、森林組合の抱える課題も見えてきて、前職の経験から組合の運営にも興味をもち始めた時期だった。 「林業や組合を変えていこうという気持ちもありまして」と、職員になった理由を話してくれた。
  いまは技術主任。精度の高い最新のGPS(位置情報システム)を使って山の測量などをしている。また、先進的な林業経営に取り組むほかの組合に学びに行くこともある。「組合の運営面では上との衝突もあります。あえて出る杭となって頑張っていますが。なんとか利益を上げられる森林組合のビジネスモデルをつくりたいと思っています」と、前職での経験がいきた発言も飛び出した。


「こうぼうかぜのたに」として道の駅などに出している暁子さんの「商品」

「風の谷」に流れる
ゆるゆるとした時間

  組合のなかで話していたときは「IT企業出身」という雰囲気をまとった正木さんだが、一歩外に出ると和やかな表情に。「ゆるゆると」と何度となく唱え、「まあ、ゆっくりしていってください。せっかく来たんだから」といって現在の住まいへと案内してくれた。
  「私はログハウス派、妻は古民家派なんですよねえ」と、話題は田舎暮らしや、こっちで知り合い結婚した妻、暁子さん(38歳)のことへと移る。いま住んでいる家を探すのは苦労したそうだが、組合から15分ほどで到着した民家は、それも報われたのでは? と思わせるほどのすてきな立地だ。緑の広場が南に向かって谷になり、その向こうには三角形に切り取られた空が見える。家はこの谷の脇に1軒だけ建ち、縁側を吹き抜けていく風が心地よい。
  実は暁子さんも横浜出身のIターン者。二人の出合いは四万十川で行われた環境イベントだ。正木さんはカヌー講座の指導員。暁子さんもスタッフとして参加していた。
  暁子さんは若いころから地域の活性化や田舎暮らしに興味をもっていた。都市部に住む人と地域との橋渡しするNPO「地球緑化センター」を介し、日本一小さい村として有名な愛知県富山村に1年滞在し、役所の仕事をしていたこともあった。


右側の二つのリングが正木さん自作の結婚指輪。リングホルダーも正木さん作

  いまは「こうぼうかぜのたに」を設けて、日和佐の自然素材をいかしたお土産を提案している。「松ぼっくりなどを拾ってきて、リースキットとして道の駅などで売っています。でも拾ってきたものが売れる≠ニいう感覚は、地元ではなかなか伝わらなくて…。お土産としては売れるんですよ」とほほ笑みながら暁子さんがいうと、正木さんが「後で案内しますよ」と、応援。その後、正木さんが木をくりぬいて作った結婚指輪やリングホルダーやなど、手づくりの品も見せてくれた。
  工房の名前はこの家の立地にちなんでいる。「自分たちでここを『風の谷』と呼んでいたら、いつの間にか郵便物もその名前で届くようになったんですよ」と、聞いていたところに、郵便局の赤いバイクが「ブーン」と、演出したかのようにジャストタイミングで登場した。
  笑顔の正木さんから「ほら!」と渡された封筒には、「徳島県美波町・・・・風の谷 正木暁子様」と書かれていた。


「風の谷」。手前の一角で最近野菜などを作り始めたという
【No7(2007年秋号)掲載】
 
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