
耕運機の操作に懸命に取り組む。下山研修所の山間営農科の実習 |
「田舎暮らし」が夢
ここは豊田市下山地区(旧下山村)。山間にこだまするように、耕運機の音と大勢の人声が響いていた。豊田市農ライフ創生センターの下山研修所・山間営農科の研修生たち11人の元気な声である。
この日は、週1回(半日)の研修日。野菜(ナスなど)の栽培管理を教わった後、耕運機の使い方の授業が行われた。
市内に住む女性は、山間営農コースの2期生。その前は、同センター(本所)の果樹科コースを2年間経験した「転科生」。市街地暮らしから山間地に移住して「田舎暮らし」をしたいという夢がある。この女性が「農」に出合ったのは、サツマイモの収穫体験。土に触れて作物を収穫することのすばらしさを体験した。5家族共同で民家を借り、期間限定で「田舎暮らし」を楽しんだこともある。住まいの隣に畑がある、そんな夢を実現するため、今、山間営農コースに通いながら、野菜づくりの研修に励んでいる。

山間営農科コース研修生の野菜畑(ナスなど) |
農ライフ創生センターの活動
豊田市農ライフ創生センター(本所・豊田市四郷町)は、定年退職者などを「生きがい型農業」の担い手として育てるための研修事業(農作物栽培技術研修)を行っている。あわせて、研修修了者に対して農地を仲介したり、人手不足の高齢農家などに援農希望者としてあっせんしたりする事業を実施している。
同センターの活動は、2006年3月に認定を受けた「農ライフ創生特区」の特例措置に基づいて行われている。

旬の野菜づくりコースの授業 |
「農ライフ創生特区」の狙い
豊田市の「農ライフ創生特区」は、遊休農地を含む農地という「土地資源」と定年退職者などの「人的資源」とを結びつける「狙い」がある。定年退職者などが「生きがい型農業」の担い手になり、市民農園・家庭菜園に参加して、暮らしのなかに「農」を取り入れ、健康でいきいきと生活してほしいという「狙い」だ。
「農ライフ創生特区」の特例措置は、@市民農園の開設者の範囲拡大(市町村やJAに限られていた市民農園の開設を、民間の農地所有者もできるようにする)、A農地法の下限取得面積の緩和(旧豊田市の規定にある、新規就農者の最低面積要件40アールを10アールに引き下げる)、というのが大まかな中身である。
豊田市は、トヨタ自動車の企業城下町としての顔をもっているが、旧豊田市は総農家数4900戸、総農地面積3300ヘクタールの水田農業・兼業地帯という一大農業地帯でもある。トヨタ関連でも団塊世代の定年退職者が年2〜3千人は出てくる。一方で、農業従事者の高齢化が進んで、農地の遊休化が目立ち始めた。この2つの「人的資源」と「土地資源」を結びつけようというわけだ。

広い研修農場をもっている豊田市農ライフ創生センター |
多様な農業研修コース
同センターの農作物栽培技術研修は、いくつかのコースに分かれている。
担い手づくりコースは、「農地をもっていないが農家になりたい」「農業である程度の収入を得たい」という人のためのコース。農作物の栽培技術の実技を中心に、2年間(週1回、午前中、年間40〜50回)研修する。そのほか、当番制の栽培管理作業などもある。修了者には、希望に応じて10アール以上の農地をあっせんする。また、果樹農家など援農先の紹介もする。
担い手づくりコースは、同センター(本所)に3科(畑科、田畑科、果樹科)、高岡研修所に1科(地産地消科)、下山研修所に1科(山間営農科)ある。定員は、各科とも12名。
同センターの畑科は、露地とハウスの野菜づくり。田畑科は、稲作と露地野菜づくり。果樹科は、豊田市特産のモモ、ナシ、イチジクづくりがメインだ。
高岡研修所は、JAあいち豊田所有の旧Aコープ店舗とバックヤードを賃借している。直売所への出荷である程度の収入を得たい人を対象にした「地産地消科」で、直売所での販売用や学校給食向けの野菜づくりを研修している。
下山研修所は、廃止された小学校跡の校舎の一部を教室として利用している。山間営農科は、山間地域での営農や援農を希望する人が対象。水稲、野菜、小菊づくりの研修を行っている。

廃校になった小学校跡地の校舎の一部を利用する下山研修所 |
趣味の野菜づくりコースも
同センター(本所)の旬の野菜づくりコースは、小規模な市民農園・家庭菜園で自家用や趣味の野菜づくりをしてみたい人が対象。春夏野菜科・秋冬野菜科の2科(定員、各科30人)に分かれ、各科とも約4カ月間の研修期間を設けている。
下山研修所の育てて食べる体験コースは、米から五平餅、ハーブからハーブ茶、ソバから手打ちそばをつくる体験研修で、定員15人。5〜11月に7回開かれる。
研修修了者に農地あっせん
担い手づくりコースの修了者には、希望に応じて、農地10アール以上を仲介、あっせんしている。修了資格は、受講率8割以上で、市農業委員会が技量判定をする。
1期生の修了者(06年2月修了)31人のうち、農地所有者は7人(うち女性2人)だった。新規就農希望者18人(すべて男性)には農地398アールを仲介した。2期生修了者(07年2月修了)36人のうち、農地所有者は10人(うち女性2人)。新規就農希望者20人(うち女性6人)には農地562アールを仲介した。
ほかに1期生修了者の男性が市有地約3ヘクタールを借りて、ワイン用ブドウを試験栽培している。
また、研修を修了した新規就農者は、農機具を借り受けられる。利用料は、センター職員が運搬・操作指導を行うトラクター・コンバインが1日6千円。利用者が運搬・操作する田植機・耕運機などが1日2千円、草刈り機・背負い動力噴霧器が1日1千円だ。
同センターは、構造改革特区の特例措置を利用しながら、趣味の農業から生きがい農業、直売所出荷で100万円程度を売り上げる農業、さらに専門的な農業、これらの担い手を育てるという成果を期待されている。
そして今、ここで生まれた新規就農者たちがセカンド・ライフとして「農」のある暮らしを実現しつつある。
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