
和田さん(左)と佐藤さん(右) |
岩手県葛巻町 葛巻町森林組合
和田 幸一さん 佐藤 康さん
緑の高原でのんびりと牛が草を食む。標高400mの山々に風が吹き抜ける。北上山系に抱かれた岩手県葛巻町。今年6月、森林組合の作業班に町外出身の2名が加わった。Iターン・Jターンで移り住み、緑の研修生として第一歩を踏み出した。
山を守る使命感
「仕事を終えた後の肉体的な疲労感が快いんです」と、はにかんだ笑顔を見せる佐藤康さん(31歳)は岩手県滝沢村出身。東京の歯科技工専門学校を卒業し、歯科技工士として勤めた後、ニュージーランドへ留学したり、フリーター生活を送ったりしていたが、30歳を機に、故郷へ帰って自然のなかで働こうと決意。興味をもっていた林業で就職先を探していたところ、知り合いに紹介された葛巻町森林組合で緑の研修生として採用されることになった。
直前に受けた林業就業支援講習では座学と実地で学んだが、このなかでとくに印象に残ったのが日本の林業がおかれている現状。「荒れていく山を守るために自分の力が役に立つ、必要とされていると感じましたね」と使命感をにじませる。
作業班では、仕事には厳しいが兄貴のように面倒見のいい班長についた。覚悟はしていても想像以上にハードな作業。3カ月で体重が7sダウンしたが、先輩からは「ちょうどいい体付きになったな」と肩をたたかれる。木を切ったり、枝を落とすのに大きな力はいらない。必要なのは体を上手に使うコツ。あとは経験を積んで覚えていくしかない。「都会で暮らしていたころに比べて、心身とも健康になりました」と弾む声から、充実した毎日が伝わってくる。
山の知恵を授かる喜び
「チェーンソーを止めると、小川のせせらぎや鳥の声、風の音が耳に入ってくるんです。それが、とても心地いい」と山で働く魅力を語る和田幸一さん(36歳)は、三重県出身。京都の大学を卒業後、モスクワ国立大学、東京大学大学院修士課程、博士課程と進学し、ロシア文学を究めてきたが、自らの将来について決めかねていた。

この日の作業は除伐採 |
一方、東京での生活が長くなるにつれ、都会の喧騒から逃げ出して静かな山のなかで過ごす時間が増えていった。旅費稼ぎでアルバイトを繰り返すうちに「だったら山で働けば一石二鳥!」と思い立つ。もともと体を動かすのは好きだし、いろんな道具を使いこなす林業へのあこがれもあった。「もはや東京にいる意味はない」。
今年3月に開催された「森林の仕事ガイダンス」で岩手県を希望したのは、旅先での印象がとてもよく、担当者が親身に相談に乗ってくれたから。「できるだけ自然が多く残っているところ」という条件にもかなっていた。
作業班の一員として山に入ると、毎日いろんな発見がある。「道具を持った時の体の使い方を覚えるのも楽しいですし、仕事以外でも、先輩たちがいろんな山の知恵を授けてくれる」と瞳を輝かせる。「将来は?」の問いかけには「今やれることを着実にやっていくだけです」ときっぱり。そこに確かな道が続いていた。
真夏の太陽が照りつけるなかでの下草刈りはかなりきつい。慣れないうちは、一気に体力を消耗する。だから、お盆休み明けが一つの正念場となり、ここでダウンする人も少なからずいる。しかし、佐藤さんと和田さんの意欲は増すばかり。「まだまだ身に付けることがたくさんあるんです」と、今日もそれぞれの作業班で山に入る。 |