
軽々と刈払機を担いで斜面を上る山岸さん。傾斜30度以上の場所を自在に歩き回る姿は頼もしい |
1995年に世界文化遺産に登録された合掌造りの集落は、富山(五箇山)と岐阜(白川郷)の県境をはさんで合計3カ所。富山県南砺市にある五箇山森林組合は、富山県側にある相倉・菅沼合掌集落の葺き替え作業を行っている。
「初めて見学に来たときに1日体験でやらせてもらったのが、この葺き替え作業だったんです。伝統を守る作業がとてもすてきに思えて。この森林組合に入ろうと思ったきっかけはそれでした」
そう笑顔で語るのは山岸弘美さん(26歳)。長野県長野市から東京の大学に進学し、当時は国際協力やボランティアに興味を抱いていた学生だった。

合掌造りの屋根を葺き替える作業は、春と秋に行われる |
山が荒れているというニュースを聞き、大学4年の夏休みに1カ月間ボランティアでフィリピンへ。そこで現地の子どもたちに山の大切さを教えながら、一緒にマホガニーやマンゴーの木を植樹した。
「ボランティアは初めてでした。すごく不安だったんですが、やっているうちに植樹に対してやりがいを見つけたというか。山の作業は自分に向いているかもしれないと気づいたんです」
帰国後、ボランティア団体の人に相談したところ、同じ大学の先輩で森林組合に就職した人がいると教えてもらう。しかも、その人が女性だと知り、すぐにその先輩を訪ねた。そこで合掌造りの里を守る森林組合に入りたいと先輩に頼み込み、年明け1月には採用が決まった。

左から組合長の上坂さん、部長の鉢呂さん。「組合の人たちから、とても可愛がられています」とうれしそうな山岸さん |
超ベテランから学ぶ森林の大切さ
1年目は、その女性の先輩と組んで仕事を覚えた。ロープの結び方はもちろん、刃物の扱い方も全くの初心者。見たことも触ったこともないから「ナタノコってなんだろう?」というところから覚えなければならなかったと山岸さんは笑う。
手元の作業を覚えることとは別に、体力的につらかったのは最初の1〜2年間。でも、臨時作業員の年配の人たちと一緒に山を登る機会が多く、慣れない体でもなんとかついていけたのだとか。
「山のなかで生きてきたおじいちゃんやおばあちゃんだからこそ、生活の知恵はすごい。木の名前から山菜の種類、山の働きに至るまで、山の知識は半端じゃありません。70代の人たちと働ける職場なんて普通はないですよね。だから、貴重な体験をさせてもらってるんです」
山の厳しい自然と共存していく…夏の暑さに耐え、雪深い冬を乗り越え、「森林をいかして」いく作業。それを身をもって承継してくれる超ベテランの存在は、確かに貴重だろう。
自分から地域の輪に入って
山岸さんは、休みの日を利用して地域のサークルに参加している。まず、民謡の保存会。そこで地元の人と交流する機会がもてたという。さらに、森林組合のおばあちゃんが誘ってくれたお茶と英会話。ここで同年代の友だちもできた。
「おばあちゃんたちが、なにかと世話を焼いてくれるんですが、私からも地域にとけ込もうとしているんですよ。自分から輪のなかに入っていこうとすれば、温かく迎え入れてくれます」
うれしそうに話す山岸さんの表情は、すっかり五箇山の人間になっていた。ボランティア団体の人、大学の先輩、森林組合のおじいちゃんやおばあちゃん、サークルで知り合った友だち…この出合いは、山岸さんが前向きに一歩を踏み出してきた結果、得た縁である。移住者に一番必要なのは、その「自分から一歩を踏み出す積極性」なのかもしれない。 |