
冬に咲くクリスマスローズ。秋の花芽は摘み取って苗に体力をつけさせる |
「人生を変えたい」
歯科技工士から農業へ
「よく通りがかっているのに、こんな会社があったとは気づかなかった」
坂東成登司さん(33歳)が研修先として紹介された法人は、自宅の近所だった。Iターンの独立就農と比べると、小川をひょいとまたぎ越すほどの転身かもしれない。しかし、農業の世界に踏み込む決意と熱意に質の違いはない。
坂東さんは、大阪府八尾市のサラリーマン家庭に生まれ育った。子どものころには田畑がまだ残っていたが、今ではそれらがマンションや駐車場に姿を変えた。
専門学校を出て歯科技工士となり、歯の詰め物や義歯をつくる会社に勤めた。
「20歳で就職して10年、毎日部屋に閉じこもって入れ歯をつくっていました。外が晴れているのか雨なのか、極端な話、昼か夜かさえわからない毎日でした」
体を動かすことが好きで、アウトドアが趣味。20代後半から漠然と「人生を変えたい」と思い始め、「農業だ!」とひらめくと、後先を考えずに辞表を出した。

ブレイクが期待されているクリスマスローズの品種「ニゲル」。気品のある白一色のみ。冬に向かって丈が伸び大輪になるので切り花やブーケにできる |
研修で少しずつ基本を覚える
「研修あり、できれば法人、大阪府内」
最初の一歩は、この3点に絞った。
「農業は自分に向いているのか、体力がもつのか、考え始めると不安ばかり。だから研修で確かめたかった」
インターネットで研修先を探し、野菜栽培の短期研修を体験した後、2003年秋、「新・農業人フェア」で大阪府のブースを訪ね、藤田植物園を紹介された。
藤田植物園は、鉢花の種苗生産と販売、卸を手がける。近年ヨーロッパ直輸入のハイドランジャー(アジサイ)とクリスマスローズに力を入れ、全国的にブランドを築きつつある。昨年の売り上げは3億1千万円。社員は20名(パート含む)。
坂東さんは05年2月から1年間の研修期間を経て、正社員に採用された。
現在は、自宅近くの八尾市本社に出社してから、車で1時間半の京都府南山城村童仙房にある農場へ。パート従業員をまとめながら花苗の栽培と出荷に専念する、という毎日だ。

ヨーロッパ生まれの花は暑さが苦手。標高500mの農場で大事に育てられる |
組織のなかで働くほうが向いていた
「自宅から通えるし、研修は卸の仕事から始めて、徐々に花苗づくりの基本を覚えていったので入りやすかった」
農業分野やスタイルにこだわりはなかったので、花に抵抗はなかった。チューリップぐらいしか知らなかったのが、最近は道端の花壇や庭園などをつい、鑑賞ではなく「栽培の目」で見ている。以前は気恥ずかしくて苦手だった花屋にも、ごく自然に立ち寄るようになった。
「丹精した苗が花をつける時が一番うれしい。前の仕事のことを思うと、ストレスもなく楽しいです。組織のなかで働くのは、リスクもなく、自分には合っていたと思う。独立は考えていません」
ただし、毎日楽しいばかりでもない。とくに、11月から1月の出荷ピーク時は目が回る忙しさ。気持ちが煮詰まって「休みたい」と思うこともあるが、歯を食いしばって乗り切るしかない。
「会社の業績が上がるように頑張りたい。それにそって給料も上がれば」
就農5年以内に一人前の仕事ができるようになること、これが目下の目標だ。
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