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明日を切り開く
市民参加型の農業体験農園


東京都練馬区 農業体験農園「緑と農の体験塾」
加藤 義松さん

説明は詳しく丁寧に〜講習会で〜

 私は、東京・練馬区の住宅街の真ん中で農業体験農園「緑と農の体験塾」を1996年から経営しています。
この農園は、「もぎとり・畝売り農園」を発展させたものですが、入園者が種まき・定植から野菜づくりに参加でき、農業をまるごと体験できる市民参加型の新しい農業経営です。入園者は、農園主から野菜づくりを学びながら、年間をとおした作付計画・栽培計画に従って野菜づくりを体験します。農園主は、消費者のニーズを直接つかんで、低農薬や有機質を多投した栽培などを実現していくことができます。
  ここでは、会費制の会員148人が毎月3日間(金、土、日曜の午前・午後の2回の計6回)開く講習会のどれかに参加し、与えられた区画(30m2)で教えられた野菜づくりを体験します。農園主の細かな栽培指導によって、30m2の区画で野菜270s、金額換算にすると9万円あまりが収穫できます。野菜が食べきれないほど採れるので、季節ごとに収穫祭を開き、会員による手づくりの料理を持ち寄って、交流を深めています。
  こうしたなかで、農業体験農園を交流の場として、新しいコミュニティが生まれました。さまざまな職種の技術・能力をもった人たちの集まりですから、交流の場となっている農園ハウスも会員たちの手づくりです。また、会員有志が企画し参加する年1回の海外農業視察旅行も、ベトナム、中国、タイ、ハワイと続いて、今年は台湾を企画しています。
  農業を理解し、生産者と消費者が一緒になって農業を守り、発展させようという、新しい仲間の輪が広がっていると実感しています。


ブロッコリーなどの苗を分ける
 都市の農業は、最前線に位置しているのだと、つくづく実感しています。最大の強みは、そうやって消費者と直接向き合い、農産物を販売できることでしょう。そういう意味では、都市住民・消費者に対する日本農業の全体を代表するショーウインドーといえます。そのため都市農業は、日本農業全体の代表として、安心・安全で健康的な農産物を供給しなければなりません。それには都市住民・消費者と交流し、農業への理解を求めていく必要があります。
  最近、農園の会員たちは、茨城県の農家との交流を始めて、米やトマト、メロンなどを取り寄せはじめました。トマト150ケース、メロン100ケースなど、相当の量にのぼっています。さらに、会員有志が茨城県で米づくり、トマト・メロン栽培を始める計画も具体化しています。農家と消費者が交流するという新たな形が、ここに生み出されました。
  また、農園では、伝統野菜を栽培したり、農園主が季節ごとの農村の行事(初午やお彼岸、お盆など)について紹介したりしています。皆さんに関心をもってもらい、喜んでもらえるのは楽しいことです。それに伴い、練馬区で伝統の練馬大根の作付面積が増えるなど、各地で伝統野菜などが復活する兆しがみえています。消費者は農村の生活・文化に対する理解を深め、かつ、地元の農業は活性化する─農業体験農園の役割は、まさにこれだと思っています。
  このようなことを踏まえ、農業体験農園の開設農家が増えています。東京都農業体験農園園主会は会員数が50を超えました。農業体験農園を日本農業の最前線である都市部にたくさんつくっていく。そのことが農業に対する考え方を都市から変えていくことになると考えています。


今日の作業は野菜苗の定植
 72年に制定された新都市計画法によって、都市農業は、開発すべき区域とされた市街化区域内に相当の面積の農地が取り込まれました。それによって「都市農業不要論」といえる、宅地並みの税金を課せられました。
  永く開発サイドからの攻撃にさらされ続けた都市農業に、ようやく法制度的な存在意義が示されたのは、99年のことでした。それは食料・農業・農村基本法の施行です。第36条(都市と農村の交流)で、市民農園の整備、都市およびその周辺の農業振興がうたわれました。
  しかし、相続税の負担によって「都市農業は三代続かない」といわれる状況に変わりはありません。ただ手をこまねいていれば滅びてしまう存在です。ですが、野菜などの農産物を供給するだけでなく、農業生産をつうじて緑地や防災空間を確保し、都市住民に憩いの場を提供するなど、多面的な役割を長い期間にわたって果たしてきました。都市から緑と農をなくしてしまえば、取り返しのつかないことになります。
  都市のなかでも農業を続けたいと、私は仲間と一緒に、都市農業の多角的な役割を担いながら、「子どもたちに残せる、魅力ある農業、新しい農業を展開して、あわせて都市住民に農業に対する理解を深めてもらえる農業を切り開いていきたい」と話しあってきました。
  生産緑地法の92年改正によって、三大都市圏の市街化区域内農地が「保全すべき農地」と「宅地化すべき農地」に区分されました。この時「魅力ある農業」づくりを考えていて、ふと思い出したのが、長女が通う保育園の園児たちにサツマイモの収穫体験をさせたことです。園児たちの喜びようは、感動的でした。
  そこで練馬区などに相談し、開設したのが、農業体験農園「緑と農の体験塾」です。この経営と交流活動をつうじて、改めて都市のなかに農業が存在する意義を再確認しているところです。

 市民参加型の農業体験農園は、都市住民の「農業をやりたい」という志向を満足させるだけではありません。地域がもっている財産─自然・人・文化などの地域資源を実感して享受していく「核」となるものです。
  市民農園は全国に3200カ所あるといわれています。市民農園を増やし、農業体験農園を増やしていくこと─そこに生まれる交流の輪、農業に対する理解は、日本農業全体を発展させることにつながるはずです。生産者と消費者が一緒になって守り続けていく、価値あるものなのです。
  私の農園からも、農村地域の農家との交流が生まれ、そこに移住して野菜づくりをしながら、ゆとりある暮らしをする人たちも現われてきました。
  このような新しい農業の展開が、これから安心・安全・健康な暮らしづくりへと向かっていくと思います。

プロフィール
加藤 義松(かとう・よしまつ)
1954年東京都練馬区生まれ、53歳。東京都農業体験農園園主会会長。音楽関係の会社勤務を経て、1980年、26歳で農業に就く。1996年、畑105aのうち60aを利用して、農業体験農園「緑と農の体験塾」を開設。1998年、「農業白書」に都市農業の新しい取り組み事例として紹介される。練馬区体験農園園主会会長を務めるとともに、東京都農業体験農園園主会の2002年発足と同時に同会会長。著書に、「菜園コツのコツ」(全国農業会議所)、「からだにやさしい美味しい野菜のつくり方」(西東社)、など。
【No8(2007年冬号)掲載】
 
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