ここから始まるI・J・Uターン

有機農業の可能性  ビジネスとして追求したい
静岡県芝川町 株式会社ビオファームまつき 松木 一浩さん


フレンチレストランで働いていたころから、料理が得意。デリでも料理を担当する松木さん
 2007年7月10日、静岡県富士宮市の商業施設「ヴィラノーテ」内に、小さなデリ(洋風惣菜店)が誕生した。その名も「ビオ・デリ」。店主は(株)ビオファームまつきの松木一浩さん(45歳)。7年前、隣の芝川町で新規就農。有機栽培で、年間60種もの野菜をつくり続けてきた。名刺の肩書きは「Paysan」。フランス語で「農民」を意味している。

畑と直結。有機野菜のデリを開業
  松木さんは、毎朝7時に畑へ向かい、スタッフと作業内容を確認。畑で採れた野菜を車に乗せてデリに向かい、自ら厨房で腕を振るう。ショーケースには、自慢の野菜を使ったカラフルな惣菜が並び、店内ではランチやデザートを味わうこともできる。ワンプレートランチの「鶏手羽入り具だくさんポトフ」には、ラディッシュ、カブ、ニンジンなど、根菜が盛りだくさん。野菜は自社農園、肉や魚は地元産のこだわりのある素材を使っている。
 一方、農場の経営のほうは、セット野菜の宅配がメイン。するとどうしても、大きすぎる、虫食いがあるなど、販売できないものが出る。
 「こんな小さなタマネギも、小さく刻めば大丈夫。明日のスープになります」
デリがあることで、野菜が無駄なくいきるのだ。ランチタイムが終わると、松木さんは調理スタッフに店を任せ、再び畑へ戻る。


就農以来、ずっと借地で栽培してきたが、08年からいよいよ自前の農地を取得する
高級フランス料理店の給仕長から転身
  松木さんは、ホテル学校を卒業後、主にフランス料理店でサービスの仕事を担当していた。フランスへ渡り、現地のホテルで働いたこともある。
 「おもてなしをして、お客様の喜ぶ顔を見るのが、ものすごく好きでした」
 東京・恵比寿の高級フランス料理店「タイユバン・ロブション」で給仕長を務めた後、37歳で退職。「自分でつくった作物を自分で食べてみたい」と、自然に就農を思い立ち、栃木県烏山町(現・那須烏山市)の「帰農志塾」に入る。住み込みで有機栽培を学んだ後、2000年9月、静岡県芝川町で就農を果たした。
 就農先を求め、あちこち探し回ったが、なかなか農地を貸してくれる人がいないなか、理解を示してくれたのが、この芝川町の農業委員だったという。
 松木さんの育てる野菜は、とにかく少量多品目。ラディッシュ、ターツァイ、紅芯大根、山芋、里芋、大和芋など、和洋を問わずカラフルでバラエティに富んでいる。これをセットにして東京のレストランや一般消費者に販売。順調に売上げと、栽培面積を伸ばしてきた。


「ビオ・デリ」は、07年7月10日、富士宮郊外のヴィラノーテにオープンした
研修生の受け入れ独立を応援
  04年から研修生を受け入れていて、現在、農場で25〜35歳のスタッフ5人が働いている。農地はすべて借地で、16カ所に分散しているので、ミーティングの席で、各担当が畑の様子を報告する。
 研修生「レタスの色が変わりました」
 松木さん「早めに採っちゃおう」
 研修生「キャベツがまだあります」
 松木さん「デリに回そう」
といった調子。野菜のなかには思うように伸びなかったり、できすぎたり。虫や病気で全滅するものもある。松木さんは、それらを頭のなかにインプット。畑の都合とお客さんのニーズを、パズルのように組み合わせていく。
 研修生の日高正行さん(35歳)は大阪府出身。家族の健康を考えて農業を志し、芝川町へ移住。松木さんのもとで2年間の研修を積み、来年4月、55アールの農地を借りて独立することが決まっている。
 「ここへ来て、初めて料理を覚えました。野菜が食卓にたどり着くまでの過程が学べてよかった」
 スタッフの前職は、学生、調理員、高校講師、サラリーマンなどさまざまだが、「安全な野菜をつくりたい。いつか有機野菜の生産者として独立したい」という思いは一緒。栽培はもちろん、料理にも詳しく、販売戦略に長けた松木さんのやり方に、学ぶところが大きいという。


店頭の看板には、ここが「農場直結のデリ」であることを明記
ランチタイムに提供する「ワンプレートランチ」(1050円)には、旬の野菜がいっぱい
有機栽培に付加価値を
  デリの開業は、松木さんにとって一つの「通過点」に過ぎない。これまでずっと借地でやってきたが、来年はいよいよ自前の農地を取得して、新たな試みを展開する予定だ。
 「有機農業の付加価値を、もっと高めていきたい」
 どんなに無農薬、有機栽培でも大根一本を500円以上で売るのは難しい。松木さんが狙っているのは、「有機農業の教育効果」。例えば新規就農や定年帰農者向けの指導者付き貸農園の開設。食育の場を求める幼稚園や保育園との連携。野菜ソムリエや料理専門学校の生徒向けの農場実習……。単に野菜をつくって売るだけではない、「ソフト面」の付加価値がまだまだあると確信している。
 「食に関心をもついろいろな人たちが集まる、実践の場をつくりたい」
 就農して8年。現在の栽培面積2・5ヘクタール。野菜だけで年間2500万円を売り上げるまでに成長した。俗に「有機栽培はもうからない。家族経営で精一杯」といわれるが、それでは後進が育たない。
 「5年後には年商1億円を目指します。こんなに伸び代のある産業はない。頭を使ってガンガンやっていきます」
 これからも研修生を受け入れ、ビジネスとして有機栽培の可能性を追求する。


デリには、惣菜の全国チェーンや和食店で働いた経験をもつスタッフも 松木さんと畑で働く5人のスタッフたち。全員、生産者としての独立を目指している
松木さんのキャリア
1962年:長崎県生まれ
  ホテル学校卒業後、東京のホテルにてフレンチレストランでサービスを担当
1990年:渡仏。パリのホテルに2年間勤務
1994年:銀座のフランス料理店支配人を経て、恵比寿の「タイユヴァン・ロブション」給仕長として4年半勤務
1999年:退職。栃木県の農業塾で一年半研修
2000年:静岡県芝川町に移住。「ビオファームまつき」を設立。有機栽培の野菜を栽培し、レストランや個人向けに販売。徐々に研修生を受け入れる
2007年:富士宮市に「ビオ・デリ」を開業。栽培面積2.5ha
松木さんの1日
4:30 起床 コーヒーをいれて甘いものを食べる

畑のスタッフたちとミーティング。16カ所に分かれた畑の様子を確認
パソコンでメールチェック、ブログ更新
6:00 家族と朝食
7:00 畑のスタッフ集合 ミーティング
各圃場の様子を確認
畑仕事スタート
11:00 デリへ出勤 開店
ランチタイムの営業に加わる
14:00 畑へ
農作業、セット野菜の発送など
17:00 帰宅
19:00 家族と夕食
食後にメールチェック
22:00 就寝
【No9(2008年春号)掲載】
 
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