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| 信念を貫き
個性を磨く |
| 二宮 清純 |
オンリーワン・イコール・ナンバーワン。スポーツの世界ほど、このことを如実に証明している世界は他にない。
たとえばメジャーリーガーのパイオニア野茂英雄。ロイヤルズで3年ぶりのメジャーリーグ復帰を目指す。
野茂といえば代名詞は「トルネード投法」だ。大きく振りかぶってから腰をクルリとターンさせ、真上から剛速球と切れのいいフォークボールを投げ込む。
この独特の投法で日本人メジャーリーガー最多の123勝(109敗)をあげている。
プロ野球入団当初、「コントロールが身につかないのではないか」「盗塁は走られ放題だろう」と陰口を叩かれたが、実力で外野の声を封殺してきた。
実はこのトルネード投法、ボールの出所がわかりにくいという長所がある。「野茂はストレートとフォークボールの2種類しか球種がないのに、なぜ打てないんだ?」との声をよく耳にしたが、バッターにすればストレートかフォークボール、どちらか区別がつかないのだ。
ストレートを待っていてフォークボールがくる、あるいはフォークボールを待っていてストレートがくる――。この時点で、もうお手上げだ。野茂に言わせれば「2種類しかないから打たれない」のである。
最近は「腕にストレスをかけないため」という理由で、トルネード投法を封印しているが、一昨年6月にメスを入れたヒジの状態が万全になれば、トルネードも復活するはずだ。
三振を取る技術に関しては、まだ他の追随を許さない。39歳という年齢を考えれば、経験をいかせるクローザーのほうが合っているのではないか、とも思うが、本人には未だにスターター(先発)に対するこだわりがあるようだ。
この頑固さも野茂の野茂たる所以である。
「オンリーワンの技術」となれば、この人も負けてはいない。メジャーリーグきってのリードオフマン・イチロー(マリナーズ)だ。
イチローの代名詞といえば「振り子打法」である。メジャーリーグのピッチャーの重くて、手元で変化するボールに対応するため、年々、足の上げ幅は小さくなってきているが、今でも右足でリズムをとることに変わりはない。
しかし、プロ野球でブレークする前、このフォームの評判は散々だった。
「二本足で打てない者が一本足で打てるわけがない」
あからさまに、そう批判する首脳陣もいた。
しかしイチローは辛抱強く技術開発に取り組み、ついにこの打法を完成させた。
日米でのイチローの活躍については、改めてここで説明の必要もあるまい。
1994年、日本新記録となるシーズン210安打を放って首位打者に輝き、以来、渡米するまで7年連続でこのタイトルを守ってきた。
メジャーリーグでも2004年、84年ぶりにメジャーリーグの年間最多安打記録を塗り替えた。今季、8年連続でシーズン200安打を達成すれば、ウィリー・キーラー(1894年〜1901年)以来、メジャーリーグ史上2人目ということになる。
余談だが、数年前からイチローはストッキングをヒザ下あたりまでたくし上げている。本人によれば、こちらのほうが足にかかるストレスが少なく、短パンに近い状態でプレーできるのだという。
そしてこう続けた。
「僕は20何年野球をやってきて、そのことに初めて気づいた。今になって気づいた自分が情けない」
野球にとってプラスになることがあれば、いくつになっても貪欲に取り入れる。この向上心がある限り、イチローが成長を止めることはないだろう。
昨季、ルーキーながらセットアッパーとして活躍し、レッドソックスの3年ぶりの世界一に貢献したサウスポーの岡島秀樹も「オンリーワンの技術」の持ち主だ。
あえて名づければ「首振り投法」か。ピッチングの基本はキャッチャーミットをきちんと見て、最後まで目を切らずにボールを送り届けることである。
ところが岡島の場合、ボールをリリースする際にはあらぬ方向を向いている。口さがない者は「あっち向いてホイ投法」などと言って揶揄する。
しかし、この「あっち向いてホイ投法」、バッターからすれば、どこにボールがくるかわからないから、的を絞ることができない。さらには「ブツけられるのではないか」との恐怖が加わり、つい腰が引けてしまう。実はそれなりに理にかなった投げ方なのだ。
もし巨人時代、ピッチングコーチの意見に素直に従い、首振りのクセを矯正していたら、今の地位を築くことはなかっただろう。信念を貫くこと、個性を磨くことの大切さを、彼らの成功は私たちに教えてくれる。 |
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−プロフィール−
にのみや・せいじゅん
スポーツジャーナリスト。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。1960年、愛媛県八幡浜市生まれ。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開中。1999年6月より、インターネット・マガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」(http://www.ninomiyasports.com)を設立。また、2006年4月に、携帯サイト「二宮清純.com」(http://ninomiyaseijun.com)を開設した。スポーツジャーナリストとして活躍する一方、「地域」と「住民」を主体としたスポーツクラブづくりにも取り組んでいる。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーター、講演活動と幅広く活動中。最新著書は「歩を『と金』に変える人材活用術」(羽生善治氏との共著・日本経済新聞出版社)。 |
| 【No.10(2008年初夏号)掲載】 |
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