
定植後のトマト苗を見回る辻岡さん |
農薬を極力抑えたトマト栽培
辻岡さんのハウス3棟は、琵琶湖畔の水田地帯の真ん中にある。パイプハウス2棟(1500m2)にトマト3700本。夏場の半促成栽培で生産量15d、冬場の抑制栽培で9d(図・作付体系を参照)。生産したトマトの約9割は直売している。
そのため、「おいしさ」にこだわる。栽培方法は、県農業試験場が開発した「少量土壌培地耕システム」。肥料や水の分量が管理しやすいと評判のやり方だ。農薬の使用を極力抑えた栽培でも知られる。トマトの施設栽培では、通常は化学合成農薬24成分を散布するが、辻岡さんはわずか2成分。農薬使用量を9割以上も削減している。
「商品をつくったのなら自分で価格を付けて売りにいくべき」というのが辻岡さんの考え方。消費者への直売5割、農協の直売所で2割、スーパーなどへの直売が2割。そのほか個人営業のレストランなどにも直接販売している。
直売のだいご味は、消費者の「おいしいね」という言葉と笑顔に出合えること。

「少量土壌培地耕システム」は、トマトを植え付けるベッドに少量の土を入れ、中央を走るパイプが養液を送るシステム |
転機はIT会社の移転
辻岡さんは大学中退後、IT関連の会社に勤めた。奥さんの実家がある彦根市に引っ越してから、ITベンチャー会社の起業を手伝い、会社の役員をしていた。
その会社が、東京に移ることになった。「転機は、この時」と辻岡さん。彦根市にとどまることに決めた。そこで考えたのは、自分で「起業」すること。「農業」という文字が、すぐ頭に浮かんだ。
高校時代はバイオテクノロジー(生命工学)にあこがれ、大学に進学。教養課程の「科学倫理学」で、バイテクの功罪を教えられた。その是非を考えているうちに、いつしか関心が遠ざかっていった。
だから、農業での起業は、バイテクではなく、消費者のニーズに応える「食べ物」をつくろうという思いで始めた。


水田地帯の真ん中にあるパイプハウス(彦根市甲崎町) |
農家研修2週間で新規就農
すぐに湖東地域農業改良普及センターを訪ねた。家族の同意と農地の確保が必要といわれ、家族(妻と子ども3人)、夫婦2人の両親の同意を得た。農地は奥さんの実家が所有する水田を借りた。
東近江市の施設野菜農家で研修を2週間。
「思ったより、農業はおもしろい」
就農支援資金1千万円、自己資金400万円でハウスと少量土壌培地耕システムを購入し、03年8月に就農。実際のトマト栽培は、04年1月から始めた。
住まいは、会社時代からの彦根市街地のマンション。水田地帯にあるハウスに毎日通う通勤農業だ。「マンション住まいの専業農家」と笑うが、市街地と農村地帯を結ぶ地域全体が営業範囲に。これが販売促進に一役買っている。
07年の販売額は800万円。当面の目標1千万円は実現可能だと辻岡さん。
規模拡大ではなく、販売・営業に労力を回したいと考えている。現在は、生産7・営業3の労力配分だ。
「収穫と管理作業の重なる繁忙期を除けば、忙しくても農作業は1日4時間ほど。残りの時間は読書などにあてて、田園地帯の大気を感じていたい。就農3年目から自然の動き、とくに湿度に敏感になった。農業に完成はない。今年うまくいっても、来年うまくいくとは限らない。農業は奥深くて、おもしろい」 |