大地とつながる仕事がしたい
インターンシップ研修が縁で入社した農悠舎王隠堂。小路美歌さん(25歳)は、ここに就職して丸3年になる。
神戸の住宅密集地に育ち、大学も神戸。在学中にたまたまモンゴルの植林ツアーに参加。病みつきになって3回も通った上、インドの井戸掘りツアーにも行った。
「大地とつながり、耕して生きる暮らしや仕事にひかれたんです。でも、海外で一生仕事をするのは難しい面がある。そこで日本の農業に目が向きました」
農業の現場を体験してみようと、インターネットで研修先を探しては、大学の休みを研修に費やした。農悠舎王隠堂は3カ所目。業務内容に共感したのはもちろんだが、神戸の実家まで車で2〜3時間の近さが、就職の決め手になった。
「大学4年の春、社長に直接『社員に採用してください』と電話したら『ええよ』とその場であっさりオーケー。リクルートスーツは買わずに済みました」

お客さんの生の声が聞けるのがなによりの支え。昨年暮れに、年配女性のお客さんから漬物の本をプレゼントされ、涙が出るほどうれしかった |
1年目の悩みと迷い
農悠舎王隠堂は、消費者団体などとの産直契約のほか、生産基盤として、研修、交流、生産管理、オンラインショップなど、農業の新たな展開を試みている。取り扱うのは、すべて特別栽培の農産物とその加工品。本拠地の五條市に梅や柿の広大な果樹園をもつほか、野菜も栽培。この地域の農家とも契約している。また、別会社として全国8農場のグループ株式会社も運営する。
「さあ、農業をやるぞ」と、意気込んで入社した小路さんが配属されたのは、期待に反して配送センターだった。注文を受けて野菜を箱詰めし、発送する。慣れてくると、契約農家から野菜を調達する営業の仕事もするようになった。
「正直、入社3カ月ごろから『辞めようか』と迷う日々が1年くらい続きました。農場で土に触る仕事がしたかったんです」
悩みながらも仕事を続けるうちにパソコンの趣味に注目され、会社のHPリニューアル、ブログの立ち上げ、宅配に添える野菜紹介や ミニ通信づくりなども、担当することになった。自分の役割が見え、仕事がおもしろくなってきた。
「農作業では、腕力がある男性と比べて、仕事量にはっきり差が出ることもわかりました。仕事はチームワーク。『やっぱり適材適所かな』と、農場をやりたい気持も淘汰されていきました」
やっと見つけた自分の仕事
昨年春、会社の事業に農業体験や観光農園の可能性を探る新たな展開があった。体験交流施設を兼ねた直売所が建てられ、小路さんはそこに机を移した。
「宅配注文などの電話も直接とるようになりました。お客さんの声をじかに聞けるのは、苦情も含めて本当にうれしくて、やりがいや支えになっています」
体験交流の企画運営も小路さんの仕事。先日は、コンニャクづくりと柿渋染め体験を行った。創業者宅の古民家で、かまど炊きご飯と農園の野菜を使った昼食を体験とセットで提供した。
「つくるだけが農業ではなく、販売や体験交流で農業のすばらしさを届けることも大事。ようやくそれがわかって、辞めたいという気持はなくなりました」
今の課題は、安定供給のためにもっと自分を鍛えること。不作などを予測して対策を立てる応用力と、農家と厳しく付き合える人間力が必要だと感じている。「つくる人」と「食べる人」の間で、客観的に両者を見られるようになれば、大きな成長の証といえるのかもしれない。 |