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真冬の夜の夢
中村顕治
photo 今年の春一番は2月23日だった。傷みがひどい家の屋根やビニールトンネルが気になったが、やっと春なのだと思うと嬉しかった。だが、嬉しがらせて、泣かせてくれる、それが昨今の気象の特徴。昼間のモーレツ南風が夕刻、踵を返すように北風となった。寝室真裏の竹林をゴーゴーと揺らした。それは女心どころではない見事な変心だった。
その夜、僕は夢を見た。晩酌にいつもより焼酎を多く飲んだのは、やっと吹いた春一番をあっさりひっくり返された、ヤケ酒だったかも知れない。深酒すると眠りが浅い、夢を見る。僕が見た真冬の夜の夢の物語とはこうである。

 例のギョーザ事件。あれを契機に世間では日本の食料自給率を高めよとの声が続出した。だが、いったん耕作を休んだ田畑の復活は容易でない。そうでなくともしきりと「限界集落」とかが取り沙汰される昨今である。夢の中の僕はその解決策を懸命に練る。そうだ! 夜の闇に膝を打つ。こうすりゃ「八方一両得」というものじゃないか。
  まず新規就農希望者を国の費用で全員受け入れる。都会からやってきた就農者は自治体の仲立ちで限界集落地の休耕地、ハウスなどの施設や機械、住居を貸与される。就農者はその弁済として収穫物の5割を政府に出す。

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  国土交通省は新規就農者を受け入れた限界集落を抱える地方自治体を最優先して道路整備を行なう。かつ、その自治体には政府の地方交付金が増額される。新規就農者用の住宅建設と道路整備は地元業者への間接的支援となる。
  限界集落に健在の古老には教諭の資格を与え、新規就農者に耕作の技術を伝授してもらう。ここはボランティアとは言うまい。老齢年金相当額を教師料として国が支払う。その喜びは老人を大いに励ます。医療費の削減に結びつく。

 政府は新規就農者から受け取った農産物を市場に出す。一方で「野菜・果物・米・鶏卵・牛乳・食肉の引換券」を発行。その3割を厚生労働省に、残り7割は企業に買い取ってもらう。企業には引換券の引き受け額相当を法人税控除とする。企業は引換券を社員のボーナスの一部として使う。例えば50万円のボーナスの1割が農産物引換券で支給される。

 厚生労働省に回された引換券はメタボ対策に活用される。もちろん狙いは増え続ける医療費の削減である。運動、食事などの自助努力によって数値が改善された人に褒章として引換券が与えられる。年に一度も健康保険証を使わなかったとき市役所からプラスチック製の足踏み器をもらったが、ランナーの僕には全く無意味だった。農産物引換券なら家計を助け、更なる健康増進にも寄与する。

 限界集落が増大する悪影響は大都市にまで及ぶという説がある。新規就農希望者が全国に入植すれば、食料自給率向上は言うに及ばず、日本の治水、治山に貢献、ひいてはそれが都市生活者の暮らしを守ることにもなる。
  しかしこれではちょっと甘すぎるという声も出よう。タダとなれば応募炸裂。就農希望者にはきっと玉と石が混じる。そこで第三者委員会を設置。経過3年、5年で成果を分析。明らかにダメな者にペナルティーを科す。プロ野球なら一軍、二軍のシステム。ダメな者は二軍に降格。後続の就農希望者に新たな経営を任せ、降格した者はベンチ捕手とする。新規就農者にとって最大のプレッシャーは他の同志に比べて「自分が劣るかも」という恐れである。

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 僕が見た真冬の夜の夢。そこにはもう少し続きがあった。新規就農者が作った産物にバーコードを付ける。「美味い!」と思った消費者は携帯電話で読み取り、『iju info』編集部へ送信する。それがマイレージポイントとなってたまる。生産者の意欲は大いに高まる……。
  ああオレはやっぱりあの夜、悪酔いしたのだな。でもな、他国から食料が入手できなくなってからでは遅いのだ。地方の山村がヤブに覆われ、限界集落から伸びたツタ、カズラが丸の内や新宿に押し寄せ、六本木ヒルズに巻きついてからでは遅いのだ。食料自給率の向上、自然環境の保護、若者たちの生き甲斐実現、医療費削減、地方の活性化。あの北風の夜に見た僕の夢の荒唐無稽も、誰かがひょっこり輪にしてつなげ、回転させてくれれば面白いかも。日本が変わるかも。

 民主党オバマ候補は「CHANGE」をしきりと口にする。この百姓は今夜も焼酎でヨッパライ。それでもまだ飲む。こうつぶやきながら焼酎のおかわりをする。ちぇいぃんじぃ……。

−プロフィール−
【なかむら・けんじ】昭和22年山口県生まれ。33歳で築50年の農家跡に移住。現在は千葉県八街市在住。典型的な多品種少量栽培を実践。チャボを庭に放任飼育する。
【No10(2008年初夏号)掲載】
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