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時代の流れを読み
先手必勝で漁協を刷新


茨城県日立市 会瀬漁業協同組合 代表理事組合長
今橋 一也さん

新しい発想と行動力で、地元漁協のみならず、県内の漁業全体を引っ張っている今橋代表理事組合長

 常磐沖を漁場とする茨城県と福島県でただ一つの大型定置網、それが会瀬漁業協同組合の定置部です。漁労長を含め10人の乗組員で、2月から12月中ごろまで沖合5qに仕掛けた定置網で漁を行っています。
  以前は個人経営による株式会社形態の網元でしたが、経営不振に陥り1991年に倒産、35人いた乗組員も全員解雇されてしまいました。経営規模が大きい網元の倒産は地域の漁業全体に多大な影響を与えることから、関係団体で話し合って最終的には漁協の自営にすることが決まりました。
  93年、再スタートを切った定置部は、それまで負担の大きかった人件費を削減するために、網を引き揚げる機械を設置した定置専用船を造船。これにより乗組員を18人まで減らし、今では最少人数の10人で操業しています。


10代から30代の若手乗組員と一緒に。今橋さんは兄貴のような存在で慕われている

 私は97年、33歳の時から漁協の組合長を務めています。就任して最初に手がけたのは、組合員の若返り。当時、会瀬漁協の正組合員は平均年齢67歳で、ほとんどが60歳以上の高齢者でした。基本的に漁師に定年はないといっても、近い将来、漁協の存続に必要な正組合員数20人を確保できないのが目に見えていました。いままでと同じやり方で、血縁・地縁関係者だけを頼っているわけにはいかない状況でした。
  ちょうどそのころ、漁師を目指す人向けに情報提供などを行う「漁業就業者確保育成センター」が茨城県でも発足することを知りました。私は早速このセンターを活用し、定置部の乗組員として新人漁師を受け入れようと漁協の役員会に話を持ちかけたのですが、猛反対に合いましてね。説得するために、5年後、10年後の組合員数や年齢構成をシミュレーションした計画書を提出し、いかに危機的状況にあるかを理解してもらおうと努めました。
  でも、一番の説得材料は私の義父と私自身だったかも知れないな。妻の父は会瀬出身ですが、お菓子職人から転職して漁師となり、その父の誘いで私もサラリーマンから漁師となりました。異業種からの転職者でも漁師として十分やっていけるということを、親子二代にわたる実績で証明できたのか、結果的には定置部に新人漁師を迎えることができました。


「会瀬のさかな」をPR するためのリーフレット。スーパーや飲食店などに置いて消費者の認知度アップを図る

 これまで「漁業就業者確保育成センター」や「漁業就業支援フェア」等を通じて、20人以上の新人漁師を受け入れてきましたが、はじめはベテラン漁師と新人漁師がうまくやっていけるよう調整するのに、かなり気を遣いましたよ。同じ船で働く以上、チームとしてうまく機能しないと良い仕事ができませんから。そのためには、ベテランであってもルールを守らないなど、問題があれば船を降りてもらったこともあります。
  現在、定置部の乗組員の平均年齢は41・7歳で、10人中8人が未経験で入ってきました。8人のうち5人は異業種からの転職者で、3人は他県の水産高校出身の新卒者です。トラックの運転手やパソコン販売の営業担当など前職はさまざまで、出身地も青森や群馬などバラバラ。年齢も一番若い19歳から最年長の68歳まで半世紀ほど差があるけれど、皆すごく仲が良い。お互い助け合えるいい人間関係で、漁協の水揚げ高の9割を稼いでくれています。
  実は今、緊急事態なんですよ。昨年7月、仕掛けておいた網の半分がなくなってしまいましてね。恐らく大型船に引っ掛けられて、そのまま持っていかれたんだろうね。海上保安庁にかなり探してもらったけれど、結局、見つからなかった。漁網自体の損失約1億円に加えて、水揚げ高もそれまでの約1億1千万円から半減してしまった。厳しいですよ。
  だからこそ、より一層チームワークを発揮して、この危機を乗り越えていかなければならない。私も組合長として、多方面から手を尽くしているところです。


港のすぐそばに建つ乗組員の宿舎は賄い付き。最盛期は30人以上の乗組員が生活していたスペースに、現在は7人が暮らす

 捕るだけの漁業の時代は終わりました。これからの漁業者は、いろんなことをもっと勉強していかないとダメですね。必要な情報を自ら集め活用していくことが必要だし、消費者とも積極的にかかわっていかなければならない。
  3年前からうちの定置網漁で捕れた魚を「会瀬のさかな」ブランドとして市内のスーパーに直接卸していますが、値段が高いにもかかわらず、ほかの産地の魚より先に売れていくんですよ。目玉商品のアジが1匹100円だったら、うちのは250円。2・5倍の高値でも売れるのは「DAY0」といって水揚げしたその日に店頭に並べているから。それに、定置網漁だと魚が生きたまま水揚げされて、傷が少ない。パック詰めされた魚が、まだ店頭でエラを動かしているんだからね。スーパーのお客さんも驚いていますよ。うちでは一般の定置網漁に加え「底定置」といってやや海の深いところの魚も捕れる漁をやっていますから、大衆魚に限らず多くの魚種を提供できるのも強みです。


定置網を仕掛けて戻ったばかりの「おおせ一号」。船体の中央には網を引き場げるための機械が設置されている

 地域で生産された食材をその地域で消費する、いわゆる「地産地消」が全国的に進められています。消費者からすれば目の前の海で捕れた魚を食べられるほうが鮮度がよくて安心だろうし、漁業者にしてみれば消費者から「おいしい!」の声が届く範囲に魚を卸せるのはうれしいこと。スーパーのバイヤーから「毎日、何人ものお客さんが『今日、会瀬の魚、入っていますか?』と電話をかけてきますよ」という話を聞くと、漁師冥利に尽きるなと思いますね。
  地元の魚の価値をきちんと評価してくれる消費者とバイヤーがいることは、生産者として大きな支えになります。地元の魚の良さを知ってもらうために、これからも市民講演会や少年団を通じた普及活動をはじめ、いろいろなことに取り組んでいきますよ。

プロフィール
今橋 一也(いまはし・かずや)
1964年、日立市生まれ。日立工業専修学校高等課程電気科卒業後、株式会社日立製作所勤務。86年、サラリーマンから転職して漁師に。妻の父母が営む山重丸(1.4トン)に乗り、刺し網や一本釣り、アワビ・ワカメ採りに従事する。90年、第二山重丸として独立。97年より会瀬漁業協同組合代表理事組合長。現在、茨城沿海地区漁業協同組合連合会代表監事なども兼務している
【No10(2008年初夏号)掲載】
 
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