ここから始まるI・J・Uターン

感性にゆだねる
中村顕治
photo  前々回「食うという事」と題して書いた。今回その延長という形で僕の思いを若い人に伝えてみたい。ここでいう「食う」には二つの意味がある。働いて生活を成り立たせるという意味。もうひとつは食うことによって身体を作る、即ち健康で日常生活を送るという意味。
 電車に乗るのが年に一回という僕は世間の実情を新聞、テレビ、本で知る。そして思う。昔よりうんと良くなった部分、逆に悪くなった部分、半々かなと。あらゆるものが便利になった。個人の住宅も会社のオフィスも通勤電車も、僕の若い頃に比べ格段に美しく立派になった。そういえば東京の地下鉄トイレが温水洗浄便座になるというではないか。僕はウーンと驚く。
photo  しかしどうも個人に幸福感は充分行き渡っていない。四十年前、僕の三十歳時代に比べ会社勤めの中にある不自由感は強いようだ。その不自由から逃れるための手段として「田舎暮らし」がある。どこにどんな物件があるか。僕の時代は新聞の不動産「三行広告」だけが手掛かりだった。今はネットで自由自在だ。しかも移住希望者には行政からの援助も。
 ところが情報過多がかえって邪魔するのか、行動になかなか移さず「耳年増」になる人がけっこういる。十年以上も田舎暮らしガイドブックを読んでいるなんて人もいるらしい。
 人生、慎重であることは大切。が、人間ときには「軽率」であってもよい。慎重から生まれる幸運とは別に軽率から生まれる幸運も不思議なもので存在する。僕がそうだった。石橋を何度も叩き、結局渡らなかった人生は寂しくないか。
photo  次に僕が述べたいのは文字通りに食べることの大切さだ。「人間は食べた物それ自体だ」と言われる。ヒトの生命力は、普段の食生活がどうか、身体活動をどれだけしているかに関係していると僕は思う。だが新聞を見てもテレビを見ても溢れんばかりのサプリメント広告である。あるいはたった一週間で十キロ痩せたなんて話である。「一点豪華・性急主義」は、こと食品と運動に関しては通用しない…これが若い頃からの僕の考えだ。好き嫌いなく何でも食べる、毎日体を動かす。これを僕は通してきた。
 風邪は万病のもとと言うが、僕は便秘は万病のもとと考える。外から取り込んだ物の不要部分は外に出してやらねばならない。大雨でぬかるんだ畑をほっておくと野菜は根腐れを起こす。最近、腸の秘めたるパワーがしきりと伝えられるようになった。免疫力とも関係するらしい。僕は朝食後すぐにキッチリ出る。便秘をしたことは…一回だけある。
photo  九十年代、何度かロシア旅行をした。その旅行でただ一度の便秘を経験した。酒は度数の高いウオッカ。向こうの流儀では水割りなんてものはなくストレートだ。ソ連崩壊直後のあの国の食生活は粗末で、酒のつまみも同様。新鮮な野菜がない。ハイパーインフレで、南の方から運ばれて来る胡瓜一キロが老人の年金一ヶ月分に相当するとも言われていた。かくして僕は異国で便秘とイボ痔になった。野菜の大切さを実感した。
 今そばにいる女性が言う。あなたって、頭痛、肩こりなし、風邪を引かず、おなかをこわさない。そして決まって言うことは、肉、魚、野菜、何でも食べること、特に野菜はしっかり食べること…。
 ねえ、それって誰かに教わったの、本か何かで勉強したの? 僕はそれに答える。
ふふっ…本能さ。
photo  三食きちんと野菜と果物を食べている。この原稿を書いている時点で言うなら南瓜、牛蒡、サツマイモ、ゴーヤ、里芋、アシタバ、インゲン、ピーマン、ナス、ネギ、大根、ヤーコン、玉ネギ、生姜、落花生、枝豆、イチジク、ナツメ、ポポー、サルナシ、柿。乳製品も欠かさず食べる。
 本能さ…彼女の問いにそう答えた僕ではあるが、それを「感性」と言い換えてもいい。感性は自然に身を委ねる所に育つ。雨に濡れ、風に吹かれ、強い日差しに焼かれ、しびれる寒さに抱かれ、ときには背丈を超す焚き火の炎に向き合い、火を発見した原始の人類に想いを寄せてもみる。他者からの甘言に乗らない。楽しんで何でも食べて、しっかり動いて、出すべきものを定時的に出し、出した後の心地よさを知る。
photo  どこかに移住したい、田舎暮らしを始めたい。そう願うときにも感性は大切だろう。退屈な人生の中でのいっときの思いつき、憧れではいけない。「軽率」でもよいと書いたことと矛盾するようだが、そうではない。僕の言う感性とは人に追随せず、自分の意思でそれをなし、良い結果、悪い結果、全てを自分の責任とする「覚悟」のことである。
−プロフィール−
【なかむら・けんじ】昭和22年山口県生まれ。33歳で築50年の農家跡に移住。現在は千葉県八街市在住。典型的な多品種少量栽培を実践。チャボを庭に放任飼育する。ブログ「食うために生きる─脱サラ百姓日記」
http://blogs.yahoo.co.jp/tamakenjijibaba
【No29(2016年冬号)掲載】
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