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男性と同じ仕事をこなす 女性サラリーマン漁師

高知県室戸岬市 岩田 梅佳さん
(23歳)農業歴:3年

和歌山市内に生まれ育つ、幼い時から海が好きで、釣り好きな祖父に、よく連れて行ってもらっていた。動物系の専門学校に進学し、海と魚に触れられる仕事で真っ先に思いついたのが「漁師」だった。

女人禁制のしきたりを変える
意欲ある後継者の育成へ

100年以上にわたり、漁師町としての歴史を重ねる高知県室戸岬市。3年半前、岩田さんは和歌山からこの地に移住し、女性でありながら「漁師」という道を選んだ。きっかけは、就職活動中に学校まで就職説明会にやってきた三津大敷・漁労部長山本さんとの出会いだ。

元々「海や魚に関連した仕事に就きたい」と就職活動をしていた岩田さんは、山本さんが語る漁業の魅力、楽しさ、やりがいに強く心を打たれ、勢いそのままに漁業体験会に参加、2度の研修を終えた後、満を持して三津大敷に雇用を申し出るも断られてしまったという。その理由について山本さんは「船には船魂(ふなだま)様と呼ばれる女神様が祭られていて、女性を乗せるとこの女神様が嫉妬するから女性は乗せないというしきたりがあったんです。当初はそれを理由に断りましたが、漁業の後継者不足は深刻な問題となっています。ここはしきたりに固執するのではなく、意欲を持ってきてくれる若い人の意思を尊重するべきと考えを改め、室戸に来てもらうことにしました」と当時を振り返る。

ちなみに岩田さんが就業した当時、三津大敷は組合だったが、昨年に株式会社となり、岩田さんは恐らく日本初と思われる女性サラリーマン漁師となった。

これまでの漁業は天候や漁獲高に左右され、収入が安定しないという一面があったが、株式会社化により固定給+ボーナス、加えて住宅手当、食事手当、通勤手当も支給されるようになった。各種社会保険も充実しており、岩田さんは毎月安定した収入を得ているそうだ。ちなみに住宅は市営住宅に入居しているが、一人暮らし用のアパートではなく、なんと3DKの2階建てだ。

船の上でも男女対等
やりたい仕事をしている充足感

船の上でも陸の上でも男と女は対等、女性だから特別扱いされるようなことは一切ない。取材当日も小雨が降る中、午前5時過ぎに出港し、7時過ぎに帰港した。この日は比較的大漁で水揚げが完了するまでの1時間、全員がに黙々と魚の仕分けに奮闘していた。男性漁師に交じり岩田さんも慣れた手つきで魚種やサイズ毎に選別。魚で一杯になったカゴを計量所に引っ張っていくなど、そこに「女性だから」という区別は見られない。本人も「自分の意志でこの世界に飛び込んだのだから、女性ということを表に出したくないんです」と話す。

室戸岬の東側、太平洋に面する三津漁港。2隻の漁船を使った、大型定置網漁を行う

一方、三津大敷は女性を受け入れるにあたり色々と準備があったそうだ。「漁船にトイレが無かったので設置しました。実は最初はすぐに辞めるだろうと思っていましたが、本当に一生懸命に働いてくれています。梅ちゃんがいることで、職場の雰囲気も明るくなりました」と山本さん。

生活面での苦労については「三津漁港に周りには何もないですが、室戸市が近いので買い物には困らないです。ただ、クルマは必須になります。水揚げが終わると朝ご飯を兼ねて1時間の休憩があるので、一度帰宅して洗濯をするなど、クルマがあることで時間を有効に活用できています」と、工夫することを楽しんでいる様子だ。

憧れと、好きという気持ちで漁師の世界に足を踏み入れた岩田さん、もちろん幾度となく辞めたいと思ったこともあるそうだ。体力的に辛いと感じることもあるが、「やりたい仕事をする!」という熱意が彼女の支えとなっていることは間違い無いだろう。

普段はブリなどが獲れるが、当日はキハダマグロが豊漁。一番大きな物は、人間の大人ほどもある

水揚げ中に、魚屋さんと談笑。もう辞めたかと思ったわという軽口にも慣れっこだそうだ

 

上司の声
相撲界では、相変わらず土俵の上は女人禁制ですね。漁業もそうでしたが、深刻な後継者不足で、そんな事に拘っちゃいられません。梅ちゃんのように「やりたい!」と思う人を受け入れられるよう、安定して働ける給与体系の改革も取り入れていますよ。

三津大敷株式会社 漁労部長
山本 幸生さん