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サッカー選手から漁師に転身 仕事・子育て・趣味で奮戦中

北海道利尻町 平川 力樹 さん
(30歳)漁業歴:3年

Jリーガーの父を持ち、物心つく前からサッカーボールが友達だった平川さん。父の背中を見て育ち、大学生まで国内でプレイ。卒業後は欧州のクラブチームで活躍する。そんなアスリート街道を歩んでいた平川さんは、今、北海道の離島で漁師として働いている。

外で体を動かす仕事がしたい!そこで利尻の漁師を決意する

北の最果て、稚内。その西側に浮かぶ利尻島は、全国に名を馳せる利尻昆布や利尻富士と呼ばれる利尻山が有名な離島だ。その利尻島に移住し、サッカー選手から漁師へと、これまでとは全く異なる道を選んだ理由は何だったのだろうか?

「一番大きな要因はコロナウイルスの流行です。当時、いくらプレイをしたくても、クラブとしての活動ができなくなりました。試合そのものがなくなり出場手当も貰えず、収入が大きく減ったことで私を始め多くのメンバーが所属チームを離れました。また、私は当時26歳だったので、肉体的な理由で引退を考えていたことも重なり、日本に戻ることを決意しました」と平川さんは説明する。

ひとまず家族の住む札幌に戻った平川さんは、友人の紹介でコンピューターを使用したマーケティング調査の仕事に就く。しかし、元々屋外で体を動かすことが好きな性分だったこともあり、性に合わず、長続きしなかった。そんな時に小さい頃から「漁師=かっこいい」と憧れを持っていたこと、されには漁船で釣りに出掛けた楽しい記憶が蘇ったころもあり、改めて漁業に興味を抱いた。

さっそくインターネットで情報収集を始めた平川さんは、札幌市内にある北海道漁業就業支援協議会のホームページに辿り着いた。支援協議会が自宅の近所だったこともあり、勢いそのまま電話すると「一度事務所においで!」となり、話を聞きに行くことに。これを機に支援協議会を通じて数か所の漁業体験に参加するに至り、その結果、体験先の1つであった利尻島の沓形(くつがた)に落ち着くこととなった。

利尻島は見渡す限りの海が広がり、そこにはウニ、昆布、ナマコなど、豊富な漁場が広がっている。現在沓形地区には104名の漁師が所属するが、そのうちの約20名が移住者。平川さんの親方を務めた中辻清貴さんも過去に関西から移住してきた1人だ。

悪天候でも昆布が乾燥できる施設を中辻さんは導入。平川さんはそこの責任者的な立場で、まさに司令塔だ。

町の就業対策事業活用 支援で安定した生活を確保

2週間の漁業体験で手応えを感じ、内定を得た平川さん。ところが、利尻町の「新規漁業就業者確保・育成対策事業」の支援を受けるには、札幌で開催される「漁業就業支援フェア」への参加が条件だった。フェアの開催を待ち、会場で中辻さんと再会した平川さんは改めて移住を決意。2021年5月、スーツケース1つで利尻島へ渡った。

親方の中辻さんは3年間の研修期間中、漁業のノウハウを教えつつ、家財道具の揃った住宅を手配(平屋戸建て3LDK、家賃は1万6000円/月)。加えて利尻町からは研修期間の3年間で100万円の支援金が送られるほか、研修期間中は親からの給与として月額16万円が支払われる。この給与に加え、水揚げした海産物は歩合として支給されるので、生活には困らないそうだ。

利尻島の生活に慣れた頃、函館から移住した奥様と結婚し、昨年には男児を授かった。お互い自然が好きで、境遇も似ていた縁から距離が縮まった。下ね器を引退してもサッカー愛は冷めておらず、漁業だけでなくサッカーの発展にも力を注いでいる。「子供が産まれたことで、考え方が大きく変わりました。指導者の立場だけでなく、この子が成長した時に、利尻でサッカーができる環境を整えることも自分の役目と考えています」と語る。

利尻に移住したことで、仕事だけでなく、かけがえのない「家族」も手に入れた平川さん。彼にとって利尻島は、新天地そのものだと言えるだろう。

平川さんの相棒「力丸」。住宅だけでなく、船なども先輩から継承。

CHECK!平川さんが活用した支援策

新規漁業就業者確保・育成対策事業

利尻島では漁業従事者の高齢化や後継者不足が深刻な課題。沓形地区は最盛期1,000人以上の漁師が在籍していたが、今は1/10となっている。漁業体験の後、後継者として移住した人には100万円の支援があり、平川さんは手持ちの資金と合わせて漁業権、船舶免許、無線免許、漁具などの必要な物を揃えていった。

準備資金は100万円
華やかに見えるサッカー選手だが、ある日突然クラブを解雇されることも珍しくないとか。そんな時のために、以前から多少の蓄えを持っていた平川さん。また所持品も極力少なくまとめていたので、欧州から日本に戻る時も札幌から利尻に移住する時も、荷物はスーツケース1つだけだったそうだ。親方の中辻さんも移住経験者なので、家財道具付きの住宅を用意するなど、非常に親身になってくれたと言えるだろう。

自然が溢れる利尻島で、家族3人の生活を満喫。

 

移住前にかかった主な費用
・引っ越し費…15万円(帰国費用)
・開業資金…10万円
・漁業体験(道南地区)…5万円
・漁業体験(石狩地区)…3万円
・漁業体験(利尻)…7万円
※終了後に親方が負担
合計123万円
移住後にかかった主な費用
・引っ越し費…1.5万円
・漁協入会費(漁業権、出資金)…75万円
・自家用車費用(3年間で2台)…120万円※
※最初は10万円の中古軽トラ、去年購入は新車
・船舶免許…15万円
・インターネット環境…6万円/年
・船の燃料代…3万円/年
合計約220万円