神奈川県小田原市 江森正典さん 真奈さん
安定した職を捨て
夢だった漁師へ転職!
江森正典さん(47歳)は、小田原と湯河原の中間にある江之浦漁港を拠点に、相模湾で漁を営む漁師だ。水産大学卒業後、全国漁業協同組合連合会に就職するも、漁師という仕事への憧れ、さらにはより多くの海洋生物に触れられ、現場(海)に身を置く漁生活への想いが捨てられず、転職を決意。退職後は江之浦に移住し、地元の定置網船で働きながら漁を学んだ。現在は独立漁師として刺網漁と釣り船で生計を立てている。
江之浦に一軒家を構える江森家は、正典さんと奥さんの真奈さん(46歳)、さらに移住後に生まれた長男(16歳)、長女(13歳)、次女(7歳)の5人家族。今は賑やかな江森家だが、移住生活は正典さん一人で開始。本当に漁師としてやっていけるか? 約1年、一人で試した後に婚約者だった真奈さんを江之浦に迎えた。
“新婚生活”“移住生活”“漁師の妻”を同時にスタートさせた真奈さんにとって田舎での生活は初めてのことだらけ。頼みの正典さんは漁で家を空けることが多く、地域の会合やイベントは真奈さんが代わって出席した。当時、最も辛かったのは「気軽に話ができる地元の知り合いが少なかったこと」。しかし、ストイックに漁に取り組み、地域に貢献する正典さん、夫に代わり積極的に地域行事に顔を出す真奈さんは地元の人々の人望を集め、江之浦になくてはならない夫婦となった。当然、多くの友達もできた。さらに3人の子宝にも恵まれ、子どもたちの成長に合わせて地域との繋がりはさらに強く根を張ったという。
「田舎の生活で“人間力”が確実に鍛えられました。人との繋がりが希薄な都会生活では絶対に得られなかったでしょうね」と振り返る。
卸売りのルートを開拓して
地域活性に貢献
家族が増えるにつれ、正典さんの漁は変化を余儀なくされた。「今は漁を楽しむというより、家族を養うための漁になりました」と正典さん。
ここ数年、漁獲量は減少傾向にある上、市場での価格も下がっている。そこで正典さんは地元の旅館や料理店などへの卸売りを開始。卸売りは市場では買い取られない魚も買い取ってもらえるほか、地産地消による地域貢献にも一役かうことができる。正典さんが獲った魚は一匹一匹丁寧に〆ているため鮮度が落ちにくく、提携先でも味が良いと喜ばれている。市場を介さない分、配達などの手間は増えたが「これも家族のため」と正典さん。ちなみに地産地消へのルートを開拓したのは真奈さんの“人間力”。八百屋さんでの立ち話がきっかけだった。
家族を養うための漁とはいえ、正典さんにはささやかな楽しみがある。珍種の発見だ。相模湾では見かけない種を見つけると、市内の「生命の星地球博物館」に持ち込み、研究員たちと議論を重ねる。正典さんにとって至福の時間なのだそうだ。
子育てが一段落すれば“養うための漁”から“楽しむ漁”を行える時がくる。その日のため、正典さんは今日も船を出す。
漁業就業セミナーでは講師として参加
正典さんは全国漁業就業者確保育成センターが主催する「漁業就業セミナー(東京開催)」に講師として招かれることもあり、漁業への就業希望者および検討者に対し講習を行っている。2011年6月に開催されたセミナーでは自身が漁師に就いた経緯、漁師という仕事の魅力、苦労などについて講習を行った。
さらに小田原市内の小学校でも講師として招かれ、漁師の仕事、魚が食卓に届くまでの仕組みを説明するなど、漁業活性化に向け尽力している。