宮城県丸森町 鈴木 学さん
(50 歳) 農業歴: 15 年
- 【すずき まなぶ】滋賀県出身。東京の大学に進学後、コンサルティング会社に就職。宮城県内の農業法人での5年の勤務を経て、2003年に丸森町で独立就農。現在は宿根草の苗を主に生産する「はるはなファーム」を営む。
取引先との縁で独立就農、法人化
日々実感する栽培と経営の難しさ
宮城県の南端に位置する丸森町で「はるはなファーム」を営む鈴木学さん。ガーデン用の宿根草(毎年花をつける植物)の苗をメインに生産し、少量多品種栽培でその数は700~800種にも及ぶ。全国でも有数の品種数を誇る生産者だ。
鈴木さんは、もともと宮城とは遠く離れた滋賀の出身。東京の大学に進学後、仙台のコンサルティング会社などでの勤務を経て、宮城県でハーブ苗を生産する農業法人に転職した。
「ずっと農業には関心を持っていて、勤めたコンサル会社でも農業に関わりのある仕事をしていました。ただ、独立就農しようとは当初は考えておらず、30歳を前にしてハーブ苗の農業法人を選んだのも、就農というよりは転職というイメージでした。ただ、農業法人で生産管理や販売・営業に取り組む中で、『やっぱり自分の手でも作ってみたい』と少しずつ感じるようになったんです。そうはいっても、独立は起業と同じで、勇気がいること。仕事でつながりのある取引先や周囲の方にアドバイスをいただきながら、自分が生産した際の〝売り先〟をある程度想定できるようになってから、独立就農を決意しました。」
独立就農にあたり、まず苦心したのが経営開始のための農地と資金の確保。丸森町で住居を借りながら農地を探したが、なかなか見つからず困っていたところ、知人の紹介によりなんとか圃場を確保することができた。資金は自身の貯蓄に加えて農業近代化資金の借入を利用。2年目からは国民生活金融公庫(2008年に日本政策金融公庫に業務移管)を活用した。独立して7年が経った時に東日本大震災が発生、お世話になっていた取引先が被災し、代わりに生産を要請され、規模拡大し法人化を行った。行政の紹介により現在の圃場を購入でき、今では30棟近くのパイプハウスと50aほどの露地で栽培を行っている。従業員はパートも含めて15人ほどを雇用している。
5年間の農業法人での勤務で栽培から販売まで一通りを経験していた鈴木さんだが、いざ自分で経営を開始してみると想定外の連続だったという。
「栽培技術はある程度身につけていたつもりでしたが、さまざまな品種を自分で主導して生産することは簡単にはいきませんでした。とにかく毎年工夫を重ねながら、経験値を上げていくしかない。品種によっては技術を学ぶために、他県の先輩生産者の方を訪ねたこともありました。また、資金繰りや売上分析、ニーズに合った生産など、経営は奥が深い。取引先や周囲の方との縁や関係のおかげで今の規模になりましたが、独立から15年、法人化から8年経った今でも、経営の難しさを実感する毎日です。」
農業=仕事=趣味
自分の苗で喜ぶ人がいる幸せ
独立就農し、15年目となった鈴木さん。移住生活の楽しみについて聞かれると、
「栽培に取り組むうちに、植物やガーデンが持つ美しさを再認識するようになりました。最近では、植物が咲いている時だけではなく、1年間の季節の移ろいそのものに魅力を感じて、海外の植栽デザイン家の手法を学んだり、同じ趣向を持つ仲間と交流したり。うちの苗を通じて、全国の園芸店やガーデナーさんと交流できるのも嬉しいです。農業そのものが趣味と言えるかもしれませんね。自宅も圃場のすぐ隣にあって、農業が生活と直結しているので。仕事人間なんですかね」と笑顔で話す。
「あと嬉しいのは、自分の手で生産した苗がガーデンなどの現場で使われているのを見た時ですね。栽培していると、愛情が湧いてきて、苗のことを〝ウチの子〟と呼んでしまうのですが(笑)、出荷されて〝ウチの子〟があちこちの現場でいい仕事をしていることを思い浮かべながら、日々の作業に取り組んでいます。これから就農を目指す方も、『こういうものを作りたい』、『こういうものをお客様に届けたい』という目標をしっかり持って取り組むことが大切かもしれませんね。」
丸森町は、先日の台風19号で甚大な被害を受けた。はるはなファームの圃場には大きな被害はなかったが、断水などの影響が続いた。昨年まで地域の消防団にいた鈴木さんも、圃場から出る井戸水を生活用水として普段からお世話になっている近隣に配るなど、地域の再建に励んだという。地域の関わりに感謝し、自身の苗で喜ぶお客様の姿を思い描きながら、鈴木さんは日々栽培技術の向上に励んでいる。
★宮城県の新規就農支援★
宮城県新規就農相談センターでは、農業の担い手の確保・育成を目的として、新規就農者への支援や就農相談などを行っています。宮城県の就農情報は、「みやぎ農業振興公社ホームページ(https://www.miyagiagri.com)」をチェック!年2回開催している農業見学バスツアー「みやぎ農業見聞のつどい」の開催予定や報告など、就農を目指す方への情報を掲載しています。
(公社)みやぎ農業振興公社 TEL : 022-275-9192
(一社)宮城県農業会議 TEL : 022-275-9164