岐阜県出身 加木屋 航生さん
( 18 歳) 漁業歴:0年
- 【かぎや こうき】幼い時から思い描いていた漁師の仕事。身内に頼れる人はおらず、経験もない。そんな若人のために設立されたのが、静岡県立漁業高等学園。ここで15人の仲間と共に生活をし、日々研鑽を積んでいる。
自然を相手にする仕事がしたい!
その夢を実現するため焼津に進学
1970年に設立され、半世紀の歴史を歩む静岡県立漁業高等学園。漁業従事者の子供達が漁業経験を積むために設置された静岡漁民研修所が前身で、これまでに数多くの漁業従事者を輩出している。残念なことに現在は地元の焼津から就学する人数は減少してしまったが、毎年、全国から漁師を目指す若者が漁業高等学園に集っている。加木屋さんもその一人。若き夢追い人だ。
生まれ育ったのは海のない岐阜県。元々自然が大好きで、酪農が盛んな地域で育ったこともあり、小学生の頃は漠然と酪農家になりたいと思っていたが、どうせなら全く馴染みのない海の仕事に挑んでみよう、と考えを改め、中学1年の時には漁師になることを強く意識したという。
高校進学の際に中部地方にある水産高校を見学したものの通うには遠く、断念して地元の商業高校に進学。在学中に簿記やマーケティング等の資格を取得するものの「自分は事務仕事には向かないな。机に向
かってじっとしていられないし、やっぱり〝自然を相手にした仕事がしたい〟と再確認させられた3年間でした」と振り返る。
すでに気持ちを抑えられなくなっていた加木屋さんは今年の春に高校を卒業し、静岡県立漁業高等学園に入学。1年の職業訓練と初めての寮生活が始まった。
ちなみに、1年間の費用負担は60万円(資格取得費、食材費など)となるが、卒業後に漁業関係に就業すれば返済不要となる助成金制度があり、多くの学生が利用している(背中を押すには十分な助成内容となっているので、当学園が気になる方はぜひ調べてほしい)。
加木屋さんは操船技術の習得も目指しており、将来的には遠洋漁業(カツオ漁)の船長になる、という目標を掲げている。すでに国家資格の海技士試験にも挑戦しており、最低限必要となる4級海技士の筆記試験は合格済み。さらなる高みを目指し、3級海技士試験への挑戦も考えているそうだ。
漁業高等学園を選んだ理由を聞くと「漁師になりたくても地元には海がないですし、親戚にも周りにも漁業関係者はいませんでした。当然、経験も知識もないので、いきなり『漁師になりたいので雇ってください!』と言っても相手にされないのは目に見えています。ですが漁業高等学園なら漁業を基礎から学べますし、一緒に学ぶ仲間がいることも心強く感じ入学を決めました」と話してくれた。学園での生活については、6時台に起床し、午前中は座学、午後はロープワークや漁具製作等の実習となるが、体育や部活動の時間も設けられているという。とはいえ、カッター訓練や海洋実習などもあり、まさに漁業漬けの生活のようだ。
夢の実現に向け順風満帆に思える加木屋さんだが、実は極度の船酔いの持ち主。5段階レベルでは最悪の5レベルで、しかも海洋実習に参加した際に発覚したという。これまで酔った生徒には「吐いて慣れる
しかない!」と常々言ってきた先生方も、加木屋さんに関しては「社会人になって現場で吐き続けて慣れるしかないね…」と半ば諦め気味とか。
とはいえ船酔いごときで夢を諦めるつもりはない。「夢は遠洋漁業の船長になること」。自分で見つけた夢を叶えるために焼津に来た彼の瞳には、何物にも屈しない、強い信念が感じられた。