50アールのゆるやかな傾斜地に、クリやブルーベリー、ミカンなど50種の果樹と、100種の野菜を露地やハウスで栽培している。そして敷地内を元気に走り回るチャボとウコッケイが200羽。ここは本誌連載中「農園歳時記」著者の中村顕治さんの農園。典型的な多品種少量栽培を行う中村自然農園は、「整然」ではなく「ワイルド」だ。
「有機農法にこだわるのはクスリが嫌い。というか、クスリに頼らざるを得ない状況が嫌いだから」と中村さん。地面には落葉果樹の枯葉から、鶏糞、米ぬか─さらには生活のなかで出たと思われるミカンの皮、ジャガイモの皮までがまかれている。循環サイクルの有畜複合農業の縮図を垣間見た。

大地に放し飼いのチャボから採れる卵は土の香り。色は鮮やかな黄色だ
また、中村さんは野菜の詰め合わせ宅配サービスを行っている。スモールサイズ3,870円、普通サイズ4,500円。
「厳密な計算はしません。『こころ』の通じる相手には採算度外視で荷づくりすることもたびたび。『こころ』の通じる相手とは、例えば、この天気なら『仕方ないなあ』と不作の事情をわかってくれる人。そういった人には、いい品が収穫できた時にはたっぷり入れてあげます」
そういって笑う中村さんは少年時代、虫好き、生きもの好き、野原好きの子どもだった。現在の百姓暮らしの原型がそこにあった。ただし、人はそれだけでは簡単に百姓にはならない。サラリーマン時代、上司との軋轢で悩むなか、この過去の自分が突然目を覚ましたという。
「僕の内部にひそんでいた火薬に、あの上司がたまたま火をつけてくれた。脱サラの原因になるほど嫌な上司だったけど─それで僕は百姓になった」
- 軒の上で卵を産むチャボ。秘密の収穫場所がいくつもあるという
- 庭を縦横無尽に動き回るチャボたち。夜は家の中へ
- 小松菜は小さいほど甘いため、わずか15cm ほどで収穫
- 「新聞を読むのが大好きなんです」と笑いながら収穫したての野菜を箱詰めに
- 中村自然農園全景。春にはさまざまな果樹の新芽が芽吹く